第6話 勇者に必要なもの6
文字数 972文字
ハルはおれの飲み込み損なった言葉を聞き、鋭く細められた目を一気に見開いた。目から光線でも出てきて焼かれるんじゃないかと身構えたが、その後、なぜか表情が和らいだ。
「……おまえ、けっこう見る目があるじゃないか」
「……は?」
特大の賛辞を贈られたように、「ハル」ははにかんだ。意外と表情が豊かなことにも気づくが、そうなる理由がさっぱりわからない。
消し炭にされずに済んだことに安堵するべき場面なのだろうが、思わず不満げな声を出してしまった。なんでもいいから、せめてひとつくらいは自分の感覚どおりに物事が進んでほしいものだ。
「久しぶりに骨のありそうな奴に当たった。おれがサポートしてやるから、感謝しろ」
まるで今初めてサポートする気になったかのような言い方だ。……たぶん、実際にそうなのだろう。
役所の一職員とは思えないほどの迫力と怜悧な表情からして彼は無能そうには見えないが、職務上の責任とか、奉仕の精神とか勤労観なんて単語とは無縁そうだ。しかし彼のやる気が刺激されたことが、おれにとっての幸なのか不幸なのかは今のところまったく判別がつかないので、とりあえずおれは黙って頷いた。
「……よくわからないですけど、よろしくお願いします。山田、銀太です」
うまく扱えない身体を叱咤し軽く頭を下げる。
相手をよく知らないうちから勝手に判断して遠ざけるのは損だ。ちゃんと関われ。自分で関われ。
……おれは「彼ら」にそう伝えてきたではないか。おれの方を見て、何かを吸い込もうとするように話を聞いていた多くの顔を思い出す。
今さらだとしても、これ以上あいつらに対して不誠実を重ねたくはなかった。これ以上、自分の心と言葉を嘘にはしたくなかった。その思いだけがおれに、この意味不明な空間で、意味不明な魔王顔の青年に対して頭を下げさせた。「ハル」はそんなおれを見て口角を上げた。
「殊勝だな。まぁせいぜい頑張ろうぜ。おれのことはハルと呼べばいい。おまえのことは……『銀』と呼ぶ。とりあえず、おまえの家に帰るぞ」
そう言うと、「ハル」は大きな手でおれの背中を押して出入り口の方へ向かわせた。先ほどの衝撃を思い出して一瞬身構えたが、今度はどちらかといえば優しくさえ感じる触れ方だった。
油断すれば力の抜けそうな身体を掌ひとつで軽々と支えるように、ハルはおれを市役所もどきの空間からの脱出口へ導いた。
「……おまえ、けっこう見る目があるじゃないか」
「……は?」
特大の賛辞を贈られたように、「ハル」ははにかんだ。意外と表情が豊かなことにも気づくが、そうなる理由がさっぱりわからない。
消し炭にされずに済んだことに安堵するべき場面なのだろうが、思わず不満げな声を出してしまった。なんでもいいから、せめてひとつくらいは自分の感覚どおりに物事が進んでほしいものだ。
「久しぶりに骨のありそうな奴に当たった。おれがサポートしてやるから、感謝しろ」
まるで今初めてサポートする気になったかのような言い方だ。……たぶん、実際にそうなのだろう。
役所の一職員とは思えないほどの迫力と怜悧な表情からして彼は無能そうには見えないが、職務上の責任とか、奉仕の精神とか勤労観なんて単語とは無縁そうだ。しかし彼のやる気が刺激されたことが、おれにとっての幸なのか不幸なのかは今のところまったく判別がつかないので、とりあえずおれは黙って頷いた。
「……よくわからないですけど、よろしくお願いします。山田、銀太です」
うまく扱えない身体を叱咤し軽く頭を下げる。
相手をよく知らないうちから勝手に判断して遠ざけるのは損だ。ちゃんと関われ。自分で関われ。
……おれは「彼ら」にそう伝えてきたではないか。おれの方を見て、何かを吸い込もうとするように話を聞いていた多くの顔を思い出す。
今さらだとしても、これ以上あいつらに対して不誠実を重ねたくはなかった。これ以上、自分の心と言葉を嘘にはしたくなかった。その思いだけがおれに、この意味不明な空間で、意味不明な魔王顔の青年に対して頭を下げさせた。「ハル」はそんなおれを見て口角を上げた。
「殊勝だな。まぁせいぜい頑張ろうぜ。おれのことはハルと呼べばいい。おまえのことは……『銀』と呼ぶ。とりあえず、おまえの家に帰るぞ」
そう言うと、「ハル」は大きな手でおれの背中を押して出入り口の方へ向かわせた。先ほどの衝撃を思い出して一瞬身構えたが、今度はどちらかといえば優しくさえ感じる触れ方だった。
油断すれば力の抜けそうな身体を掌ひとつで軽々と支えるように、ハルはおれを市役所もどきの空間からの脱出口へ導いた。