第7話 勇者、最初のスーパーでお買い物1
文字数 896文字
自動ドアが無機質な音を立てて開くと、そこには見覚えのある景色が広がっていた。少しは予想していたものの、予想通り過ぎて脱力する。
「なんだ、妙な顔して。ジャングルが広がっているとでも思ったか」
ハルは落胆したようなおれの顔を見て呆れたように言った。
「いや、まぁ……。ジャングルでも砂漠でもいいんですけど、なんかこう、変化が欲しかったというか……」
「帰りたいんじゃないのかよ。変化欲しがってどうすんだ」
そう冷静につっ込まれても、これで「異世界に来ました」と受け容れろというのはなかなか難易度が高い。目の前には灰色のコンクリートで組み立てられた駐車場。目の前の道を横断すれば、最近できたのにいまいち客の入りが悪い残念なショッピングモールがあるはずだ。
「……おれって、想像力に欠けるんですよね」
ぽつりと呟いた。
こんなところまで「逃げ出して」きたくせに、逃避すらしきれない自分が恨めしい。結局、「この場所」にいる自分しか思い浮かべられないのだ。ジャングルでも砂漠でも地獄でも、他の場所に立てるだろうかと少し思った。それなのに、異世界に来てまでこの景色にしがみついている。「中途半端」なのは、この世界じゃなくて、おれ自身だ。
脚を止めたおれの横で、ハルも同じように立ち止まった。おれよりもずいぶん背の高い彼の表情は、前を向いたままの視界の隅ではわからない。「早くしろ」とどやされるかとも思ったが、すぐに踏み出すことはできなかった。
「そう思わずに、よく見てみろよ。違うところだってあるかもしれねぇ。今見てる景色だって、明日にはどうなってるかわからねぇぞ」
淡々とした声で、別に励ましているようでもなかった。純粋に、そう思ったからそう言った、くらいの温度の言葉だ。
ハルの言っていることはわかるような気もしたし、わからない気もした。
それでもここで立ち止まっていてもしかたがない。歩かなければ、それこそ本当に景色なんて変わらない。歩いた先にあるのが、たとえおれの望んだ景色ではないとしても、今は脚を動かすしかない。
すっと息を吸って、ちらりと見えるハルの黒いスーツを視界の端に押しやるような気持ちで重い一歩を踏み出した。
「なんだ、妙な顔して。ジャングルが広がっているとでも思ったか」
ハルは落胆したようなおれの顔を見て呆れたように言った。
「いや、まぁ……。ジャングルでも砂漠でもいいんですけど、なんかこう、変化が欲しかったというか……」
「帰りたいんじゃないのかよ。変化欲しがってどうすんだ」
そう冷静につっ込まれても、これで「異世界に来ました」と受け容れろというのはなかなか難易度が高い。目の前には灰色のコンクリートで組み立てられた駐車場。目の前の道を横断すれば、最近できたのにいまいち客の入りが悪い残念なショッピングモールがあるはずだ。
「……おれって、想像力に欠けるんですよね」
ぽつりと呟いた。
こんなところまで「逃げ出して」きたくせに、逃避すらしきれない自分が恨めしい。結局、「この場所」にいる自分しか思い浮かべられないのだ。ジャングルでも砂漠でも地獄でも、他の場所に立てるだろうかと少し思った。それなのに、異世界に来てまでこの景色にしがみついている。「中途半端」なのは、この世界じゃなくて、おれ自身だ。
脚を止めたおれの横で、ハルも同じように立ち止まった。おれよりもずいぶん背の高い彼の表情は、前を向いたままの視界の隅ではわからない。「早くしろ」とどやされるかとも思ったが、すぐに踏み出すことはできなかった。
「そう思わずに、よく見てみろよ。違うところだってあるかもしれねぇ。今見てる景色だって、明日にはどうなってるかわからねぇぞ」
淡々とした声で、別に励ましているようでもなかった。純粋に、そう思ったからそう言った、くらいの温度の言葉だ。
ハルの言っていることはわかるような気もしたし、わからない気もした。
それでもここで立ち止まっていてもしかたがない。歩かなければ、それこそ本当に景色なんて変わらない。歩いた先にあるのが、たとえおれの望んだ景色ではないとしても、今は脚を動かすしかない。
すっと息を吸って、ちらりと見えるハルの黒いスーツを視界の端に押しやるような気持ちで重い一歩を踏み出した。