第3話 勇者に必要なもの3
文字数 1,086文字
「じゃあ、後はサポート役の紹介だけだな。君のサポートは……ハルか」
彼は手元の報告書のような紙をパラパラとめくって、ちょっと複雑そうな表情をした。それからおれの視線に気づいて、弁解するように少し早口になった。
「いや、彼は非常に優秀なんだ。ただ、少し経歴が特殊というか……変わり者な部分もあってね。でも君ならうまくやれるだろう。たぶん、下のエントランスで待機しているよ。」
「じゃ、もう帰ってもいいですかね?」
ハルだかナツだか知らないが、おれに勇者のサポート役なんて必要ではない。ここで詳しく話を聞けば聞くほど逃げ道を塞ぐだけだ。何も知らないふりをして、さっさとここから出てしまおう。そう判断したおれは、はやる思いで確認した。
「そうだね。あとのことはハルが伝えてくれるだろう。早く数字が見つかるといいね」
そう微笑んで送り出してくれる表情と言葉は、決して悪人のそれには思えない。しかし、やはり何かが決定的にずれてすれ違っていることも間違いない。エントランスまでの道順を聞き、おれは転がるように奇妙なカウンターを離れた。
もつれそうになる脚をなんとか動かし、永遠に続くかと思われた無機質な廊下を抜け、見覚えのあるエントランスに辿りつくと一気に力が抜け、どっと汗が流れ落ちた。
膝に手をつき呼吸を整えるおれを、ソファに座った人たちは不思議そうに眺めていた。さっきはなんだか底知れないように感じたその視線も、心なしか身近なものに思われ、思わずこの生還をハイタッチして喜びたいような気がしたが、まだまだ気を抜くのは早い。
自分の中に微かに残る冷静さをかき集めて頭を働かせば、おれにはもうひとつ、最後の難関が待っているはずだ。
さっきの「担当者」が言っていた、謎のサポーター「ハル」に出会うことなく、ここを出なければいけない。相手の風貌はまったくわからないが、ここの職員らしき人物にはすべて警戒しておいた方がいいだろう。
とりあえず一刻も早く出口へ……と思った瞬間、背後からすべての希望を打ち砕くような、容赦のない一撃がおれの背中に加えられた。
ばしっと乾いた音がして振動が背骨に響く。
親愛の情を込めてのスキンシップにしては威力がありすぎるし、ましてや初対面の人物に加えて許される危害の域を超えている。振り返るべきではなかったが、苛立ちと痛みに対する条件反射で、おれは思わず背後を睨んだ。
「おまえ、山田銀太だな」
「……」
視線の先には、射抜くような鋭い目をした黒スーツの男が立っていた。ごく控えめにいって、一体何が起こればそこまで不機嫌になれるのだろうかと思わず質問したくなるくらい不機嫌な顔をしていた。