第5話 勇者に必要なもの

文字数 724文字

「……なんか、そう言われると微妙に(しゃく)ですけど、そんなに遠くないならすぐ戻れるってことですか?」

そう聞くと、男は黒髪の間を透かして見えるアメジストの瞳でじっとおれを見た。それどころではなかったが、改めて見ると整った顔立ちの青年だ。しかし、彼が件の「勇者サポーター」だとしたら、かなりの違和感がある。なにせ、顔立ちは整ってはいるのだが……。

「それはわからない。とりあえずは、ここの奴らに言われたように「何者か」になるために暮らしていくしかない。たしか、おまえは『勇者』を志願したんだったな」

男は手元に持っていた書類の束をちらりと一瞥し、面倒そうに言った。

「……志願したつもりはないんですけど」

不服を込めてそう言うと、男は方眉を動かし、肩をすくめた。

「しかし、書類にはそう書かれている。とりあえず、しばらくはおれが担当としてサポートにつく。……ハルだ」

付け加えたように男が名乗り、一縷(いちる)の望みはあえなく絶たれた。全身から冷気を発しているかのような威圧感はともかくとして、とりあえずおれの質問に答え、わけはわからないにしても現状を説明してくれているのだから、悪人というわけでもないのだろう。

しかし、そうは言い聞かせてみても、目の前の「ハル」なる男は、致命的に「勇者のサポート役」らしくなかった。主に、見た目の問題で。

「……本当にハルさんが、勇者のサポート役なんですか?」

「どういう意味だ?」

「……いや、あんまりそう見えないというか……どちらかというと、見た目『魔王』……」

人は混乱すると正常な判断機能を失う。そして、ブレーキ機能も弱くなる。喧嘩を売るべきではない人間の見本のような人物に向かって、おれは滅びの呪文のような超正直な感想をうっかり述べてしまった。
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登場人物紹介

山田銀太(やまだ・ぎんた)

中途半端な異世界に迷い込んだ元・教師。アラサーだけど童顔で精神年齢は低め。動物と子どもに弱い世話焼き体質。

ハル

銀太が迷い込んだ異世界での「サポート役」。

不思議なアメジスト色の瞳を持つ不愛想な青年。顔立ちは整っているが表情が邪悪なため銀太に「魔王顔」呼ばわりされている。なにやら「特殊」な存在らしい。

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