第18話 勇者のお仕事探し4

文字数 1,238文字

ハルはおれの首元にぶら下がった小さな剣モチーフについて、淡々と説明を加える。

「鞘を取れば切れる。あと、柄の後ろも使える」

非常に簡潔な内容だ。確かに、よく見るとわりと凝った造りで、綺麗な装飾のある鞘の部分は取り外しができるようになっており、外すと中の刃が冷たい光を放った。とはいっても、何せ小さいから大したものは切れないだろう。それに首からぶら下げていてはどっちみち使いものにならない。携帯方法については考えた方が良さそうだ。

柄の後ろはなんと印鑑になっていた。というより、印鑑に使えそうな感じでご丁寧に「山田」と彫り込まれていた。

自分の名字でこの物体のシリアス度が劇的に下がってしまったことが切ない。どうせわけのわからない世界なら、「竜王」とか「神宮寺」とか、剣の柄に彫ってもサマになる名を名乗っておけばよかった。

さらに、その「山田」部分はキャップのようになっており、軽く力を入れてみるとかちりという音がして外れ、中の空洞からこれまたなぜか万年筆が出てきた。

「いろいろ仕込まれてんな……」

なかなか洒落た、濃紺と金素材の万年筆を取り出しながらなんとなく感心してつぶやくと、傍で黙っておれの様子を眺めていたハルが笑った。

「そんだけいちいちリアクションしてくれれば届けた甲斐がある。まぁもらえるもんはもらっておけ」

おれは黙って頷いた。剣とペンと印。微妙に韻を踏んでいるぐらいの共通点しか見いだせない。別に小説家や記者を志しているわけでもないから、「ペンは剣より強し」なんて信念を持っているわけでもない。今のところこれといって使い道は見つからなさそうだったが、ハルの言う通りもらえるものはもらっておこう、くらいの感覚でいいかと思った。それでなくても、考えなくてはならないことはすでに山積みなのだ。

「じゃあ、遠慮なく。それよりハル、朝飯食った?」

謎剣をとりあえずパーカーのポケットに押し込んでから、おれはハルに尋ねた。

謎の多い届け物ではあったが、わざわざ出向いてくれたのだ。それがハルの意向なのか単なる職務上の義務なのかはよくわからなかったが、どちらにしろありがたいと思った。

ちょっと顔が怖いし異様なオーラも怖いし登場の仕方も難アリだが、今のところこの世界でおれが唯一対話できる存在であることには違いがない。

ハルはおれの突然の質問に少し眉をひそめた。

「朝飯? 食ってない。というか、おれは別に……」

「じゃあ一緒に食わないか。って言っても昨日の残り物だけど。ついでに、食材買ってくれたのハルだけど」

言いながらおれはキッチンに向かい、昨日作りすぎたコロッケを冷蔵庫から取り出した。電子レンジがあれば楽なのだが、ないものは仕方がないので手早くフライパンに油を薄く敷いて温めた。どうせなら温かい朝食が食べたい。ちなみに、残り物を片付けたいがためにハルを朝食に誘ったわけではない、一応。

「あんまり手が込んでなくて悪いけど」

相変わらずしかめっ面のハルの前に温めたコロッケを置くと、ハルは目を見開いた。
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登場人物紹介

山田 銀太

中途半端な異世界に迷い込んだアラサーフリーター。前職は中学校の教員だが、ある「悔い」を抱えて仕事を辞めた。相棒のハル曰く「見た目より断然図太い」。

ハル

銀太のサポーターとして世話を焼く、異世界の「市役所っぽいところの職員」。黒髪にアメジストの瞳を持つ謎めいた青年で、不思議な力を持っているらしい。銀太曰く「見た目が邪悪だが、意外と苦労性」。

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