第15話 勇者のお仕事探し1
文字数 1,361文字
水道とガスが問題なく使えることを確認して、おれはキッチンに立った。はじめにすることはやはり腹ごしらえだ。思い出してみれば今日は朝から食パン2枚しか食べていない。
この世界での一般的な食生活についてはまだよくわからないが、それはまたの機会にハルにでも聞くとしよう。とりあえず、食材とキッチンがあるのだから調理ができる。学校で教師として働いていたときには時間的に余裕がなくてほとんどコンビニ生活だったけれど、料理自体は嫌いではないのだ。せっかくハルに買ってもらった食材もあることだし、頭を整理するにもよさそうだ。
さっきスーパーで買った食材は、じゃがいも、たまねぎ、合い挽きミンチとパン粉。調味料も油もあるし、ここはやっぱりコロッケだろう。というか、食材を選ぶときにコロッケが食べたくなったからこのラインナップなのか。
ジャガイモを茹でてつぶし、少し悩んでからミンチと玉ねぎをフライパンで炒め、先にタネを合わせた。空いたフライパンにパン粉を入れ、火加減に注意しながらいい色に焼き付ける。
きつね色になったサクサクのパン粉を、一口大にまとめたタネにまぶして形を整えた。油と時間の短縮版、おれ流コロッケの完成だ。電子レンジがあればさらに簡単にできるのだが、見た目も味も上出来だ。揚げるよりヘルシーだし、とりあえず残り油の処理まで考えていなかったから、今日はこれで満足だ。歯に当たってさくっと小気味のいい音を立てるパン粉と、ほくほくのじゃがいもの微かな甘みを噛み締めると、じわじわと指先に力が戻ってくるような気がした。腹が減ってはなんとやら、というのは実に的を射た言葉だなとしみじみ感じる。
スーパーがあって、キッチンがあって、コロッケが食える世界ならなんとかやっていけるだろう。自分がもともとそんなに繊細でも理論的でもない人間だったと思い出したらずいぶん気が楽になった。
黙々とじゃがいもを潰し続けたためか、結構な量に仕上がったコロッケを食べながら、次にするべきことを頭の中で吟味する。とりあえず米が食いたいななどとぽつぽつ浮かんでくる雑念を追い払いつつ、明日からの生活に向け、なにかと停止しがちだった頭を宥めるような気持ちで回転させた。
―まず、おれはここでなんらかの働き口を見つけなければならない。「勇者」なんてよくわからない詐欺師みたいな肩書じゃなく、まっとうな職業につかなければ。
仕事を選ぶつもりはないし、資格のいる専門職とかじゃない限り、なんとかやっていけるだろう。体力と順応性についてはそこまで壊滅的でもないつもりだ。 どこに行けば仕事にありつけるのか、それを「勇者」のサポート役としてついているハルに相談していいものなのか、そのあたりはもう少し観察と駆け引きが必要な気がした。
役所の職員の口ぶりだと、「勇者」を目指すという前提の下で一定のサポートなり援助なりが受けられるような感じだったが、そのこととなんらかの「職業」に就くことが、相容れるものなのか否かは今のおれには判断がつかない。
その情報を引き出す対象があの異様な迫力を背負った青年なのかと思うと少しめげそうな気がしたが、それでもなんとかするしかないだろう。
目の前にあるコロッケの絶妙なきつね色が、「ひとつくらいはうまくいくことだってあるさ。」と言っているように感じた。
この世界での一般的な食生活についてはまだよくわからないが、それはまたの機会にハルにでも聞くとしよう。とりあえず、食材とキッチンがあるのだから調理ができる。学校で教師として働いていたときには時間的に余裕がなくてほとんどコンビニ生活だったけれど、料理自体は嫌いではないのだ。せっかくハルに買ってもらった食材もあることだし、頭を整理するにもよさそうだ。
さっきスーパーで買った食材は、じゃがいも、たまねぎ、合い挽きミンチとパン粉。調味料も油もあるし、ここはやっぱりコロッケだろう。というか、食材を選ぶときにコロッケが食べたくなったからこのラインナップなのか。
ジャガイモを茹でてつぶし、少し悩んでからミンチと玉ねぎをフライパンで炒め、先にタネを合わせた。空いたフライパンにパン粉を入れ、火加減に注意しながらいい色に焼き付ける。
きつね色になったサクサクのパン粉を、一口大にまとめたタネにまぶして形を整えた。油と時間の短縮版、おれ流コロッケの完成だ。電子レンジがあればさらに簡単にできるのだが、見た目も味も上出来だ。揚げるよりヘルシーだし、とりあえず残り油の処理まで考えていなかったから、今日はこれで満足だ。歯に当たってさくっと小気味のいい音を立てるパン粉と、ほくほくのじゃがいもの微かな甘みを噛み締めると、じわじわと指先に力が戻ってくるような気がした。腹が減ってはなんとやら、というのは実に的を射た言葉だなとしみじみ感じる。
スーパーがあって、キッチンがあって、コロッケが食える世界ならなんとかやっていけるだろう。自分がもともとそんなに繊細でも理論的でもない人間だったと思い出したらずいぶん気が楽になった。
黙々とじゃがいもを潰し続けたためか、結構な量に仕上がったコロッケを食べながら、次にするべきことを頭の中で吟味する。とりあえず米が食いたいななどとぽつぽつ浮かんでくる雑念を追い払いつつ、明日からの生活に向け、なにかと停止しがちだった頭を宥めるような気持ちで回転させた。
―まず、おれはここでなんらかの働き口を見つけなければならない。「勇者」なんてよくわからない詐欺師みたいな肩書じゃなく、まっとうな職業につかなければ。
仕事を選ぶつもりはないし、資格のいる専門職とかじゃない限り、なんとかやっていけるだろう。体力と順応性についてはそこまで壊滅的でもないつもりだ。 どこに行けば仕事にありつけるのか、それを「勇者」のサポート役としてついているハルに相談していいものなのか、そのあたりはもう少し観察と駆け引きが必要な気がした。
役所の職員の口ぶりだと、「勇者」を目指すという前提の下で一定のサポートなり援助なりが受けられるような感じだったが、そのこととなんらかの「職業」に就くことが、相容れるものなのか否かは今のおれには判断がつかない。
その情報を引き出す対象があの異様な迫力を背負った青年なのかと思うと少しめげそうな気がしたが、それでもなんとかするしかないだろう。
目の前にあるコロッケの絶妙なきつね色が、「ひとつくらいはうまくいくことだってあるさ。」と言っているように感じた。