第12話 勇者、最初のスーパーでお買い物6
文字数 1,414文字
なんとなくそんな気はしていたが、やはり油や調味料にも、見慣れたメーカー名は書かれていなかった。ラベルには「醤油」とか「サラダ油」とかいう品名が書かれているだけで、わかりやすくはあるのだがなんだかママゴト用のおもちゃを見ているような気がした。
ハルは時々おれの買い物カゴを覗き込むようにしながら、特に文句を言うでもアドバイスをするでもなく隣にいた。
その後、おれの手に提げた無地のレジ袋の中を物珍しそうに(なのだと思うが、やはり顔は怖い)覗こうとするハルと並んで歩きながら、おれはこの世界での「我が家」に帰り着いた。
見た目はごくごく普通のアパートっぽい建物だった。元住んでいたアパートと瓜二つというわけでもないが、元のアパートだってそれほど特徴的だったわけでもないから、まぁ「一般的なアパート」というくらいの共通点はある。
ハルは迷いのない足取りで2階の端の部屋に辿りつくと、黒スーツの襟元をさぐり、何の変哲もなさそうな銀色の鍵を取り出した。
彼のスーツにはきちんと胸元にポケットがあるのに、なんでそんなところから鍵を取り出したのかも、どうやって収納していたのかもわからない。
特殊な能力を目の当たりにしたのかもしれないが、いまいち感動するにもツッコむにも微妙な感じなので黙っておくことにした。ハルは取り出した鍵を目の高さまで掲げ、なぜかひと睨みしてから鍵穴に差し込んだ。
仮にも人の家の鍵をそんな鋭い眼光で睨むのはやめてほしい。この人の場合、本当に眼圧で鍵が変形してしまいそうだから尚更だ。
「まぁ、入れ。っておまえの家だけど。」
先に玄関に入ったハルは、思い出したように振り返ってそう言った。別にいいのだが、家の中まで案内してくれるつもりなのだろうか。
いかにも単身者用、といった小さめの玄関だが、内装はすっきりとしていて思っていたよりも広かった。おれが元住んでいたアパートよりも少し広いくらいだ。そして何より…キッチンがきちんとあった。
ガスコンロがふたつもあり、こじんまりとはしているがカウンターキッチン型だ。おれの表情筋は今日初めて綻んだ。宝くじに当たったくらいの(当たったことはないが)嬉しさだ。
リビングで辺りを見回すハルの脇をすり抜け、真っ先にキッチンの棚を漁ったおれは、フライパンと鍋を見つけ、さらに上の引き出しからは菜箸やピーラー、フライ返しなどの基本調理器具も発見した。
正直、人の家の樽やたんすを漁りまくる勇者の姿どうよってゲームしながらちょっと思ったことはある。あるけど、今のおれにはそれをツッコむ資格はない。だいたい、同じレベルだ。
戦利品は上々だった。調味料もなぜか使いさしではあるものの奇跡的に一式揃っていたし、冷蔵庫も生きていた。まったくの新居というよりは、以前の住人がこつ然と消えてしまったかのような感じだ。少し不気味な気がしなくもないが、ないよりはある方が断然ありがたい。素直に感謝し、活用させてもらうことにした。
「なんだか知らんが、気に入ったみたいだな。」
ちょろちょろと動き回り棚や引き出しを漁るおれを見ながら、ハルは苦笑した。正直、少し存在を忘れかけていた。
「いろいろありがとう。とりあえず、ありがたく住ませてもらうよ。」
なんだかんだとここまで文句も言わずにつきあってくれているハルにとりあえず礼を言う。どこまでが彼の「仕事」の範疇なのか定かではないが、たとえ仕事上の義務だとしても礼くらいは言っておこうと思った。
ハルは時々おれの買い物カゴを覗き込むようにしながら、特に文句を言うでもアドバイスをするでもなく隣にいた。
その後、おれの手に提げた無地のレジ袋の中を物珍しそうに(なのだと思うが、やはり顔は怖い)覗こうとするハルと並んで歩きながら、おれはこの世界での「我が家」に帰り着いた。
見た目はごくごく普通のアパートっぽい建物だった。元住んでいたアパートと瓜二つというわけでもないが、元のアパートだってそれほど特徴的だったわけでもないから、まぁ「一般的なアパート」というくらいの共通点はある。
ハルは迷いのない足取りで2階の端の部屋に辿りつくと、黒スーツの襟元をさぐり、何の変哲もなさそうな銀色の鍵を取り出した。
彼のスーツにはきちんと胸元にポケットがあるのに、なんでそんなところから鍵を取り出したのかも、どうやって収納していたのかもわからない。
特殊な能力を目の当たりにしたのかもしれないが、いまいち感動するにもツッコむにも微妙な感じなので黙っておくことにした。ハルは取り出した鍵を目の高さまで掲げ、なぜかひと睨みしてから鍵穴に差し込んだ。
仮にも人の家の鍵をそんな鋭い眼光で睨むのはやめてほしい。この人の場合、本当に眼圧で鍵が変形してしまいそうだから尚更だ。
「まぁ、入れ。っておまえの家だけど。」
先に玄関に入ったハルは、思い出したように振り返ってそう言った。別にいいのだが、家の中まで案内してくれるつもりなのだろうか。
いかにも単身者用、といった小さめの玄関だが、内装はすっきりとしていて思っていたよりも広かった。おれが元住んでいたアパートよりも少し広いくらいだ。そして何より…キッチンがきちんとあった。
ガスコンロがふたつもあり、こじんまりとはしているがカウンターキッチン型だ。おれの表情筋は今日初めて綻んだ。宝くじに当たったくらいの(当たったことはないが)嬉しさだ。
リビングで辺りを見回すハルの脇をすり抜け、真っ先にキッチンの棚を漁ったおれは、フライパンと鍋を見つけ、さらに上の引き出しからは菜箸やピーラー、フライ返しなどの基本調理器具も発見した。
正直、人の家の樽やたんすを漁りまくる勇者の姿どうよってゲームしながらちょっと思ったことはある。あるけど、今のおれにはそれをツッコむ資格はない。だいたい、同じレベルだ。
戦利品は上々だった。調味料もなぜか使いさしではあるものの奇跡的に一式揃っていたし、冷蔵庫も生きていた。まったくの新居というよりは、以前の住人がこつ然と消えてしまったかのような感じだ。少し不気味な気がしなくもないが、ないよりはある方が断然ありがたい。素直に感謝し、活用させてもらうことにした。
「なんだか知らんが、気に入ったみたいだな。」
ちょろちょろと動き回り棚や引き出しを漁るおれを見ながら、ハルは苦笑した。正直、少し存在を忘れかけていた。
「いろいろありがとう。とりあえず、ありがたく住ませてもらうよ。」
なんだかんだとここまで文句も言わずにつきあってくれているハルにとりあえず礼を言う。どこまでが彼の「仕事」の範疇なのか定かではないが、たとえ仕事上の義務だとしても礼くらいは言っておこうと思った。