第17話 勇者のお仕事探し3
文字数 1,328文字
しかし一瞬の後にはハルはいつもの、というか昨日の調子を取り戻したかのように鋭い目つきになった。
「支給品を届けに来た」
「しきゅうひん」
とりあえずオウム返しに呟いたおれの反応にはさして興味がなさそうに、ハルはズボンのポケットに手を突っ込んだ。クローゼットから登場した割に収納場所は普通のようだ。
「支給品って、なんだっけ?」
「もらえるものはもらっておく」主義ではあるのだが、妙なものを渡されても使い道に困るだろう。そして昨日からの話の流れ上、まさにおれが危惧する「妙なもの」がハルのポケットから登場する確率が非常に高い気しかしなかった。
宝箱の姿をしたモンスター……ゲームなら、自分の勘を信じて迷わず素通りしたいところだ。
「何って、剣だろ。昨日のおっさんから説明受けなかったのか?」
「剣……」
三十路の社会人としては「んな得体のしれないものは受け取れない」とクールに対応すべきだろう。市役所モドキの公認とはいえ、銃刀法とか大丈夫なのかという点も気にはなる。
にも関わらずちょっと「勇者の剣」という響きにときめきかけてしまった。そういえば、おれはもともと中学生とガチで渡り合える心の若さの持ち主なのだ。言い方を変えれば、精神年齢は割と低めだ。
しかしそれをハルに気づかれるのはさすがにどうだと思いとどまり、なんとか無表情を保とうと努力した。
ハルはそんなおれの様子をちらりと一瞥し、それから何を思ったのかポケットから出した手をいきなりおれの首の裏に回してきた。
表情筋に神経を集中させていたために反応が遅れ、今度こそ何らかの攻撃を受けるものかとひやりとしたが、その一瞬のちにはハルは再び元の距離に戻り、相変わらず感情の読み取りにくい顔でおれの胸元を眺めていた。
微かな重みに視線を落とすと、どうやらさっきハルに掛けられたらしいペンダント的なものが視界に入った。先端部分には大きめマジックペンぐらいの大きさの剣のようなモチーフがぶら下がっている。…剣、だ。
「もしかしなくても、これが…剣?」
「そうだ。なかなか似合ってるぞ。ちょっと、紐長いけどな。」
さらりと「チビだ」という趣旨の嫌味を混ぜ込まれたような気がするが流しておく。そんなことより、この世界初のおれの慎ましやかなトキメキを返してほしい。
いまどき、ちびっこのヒーローごっこグッズだってもう少しリアリティがあるだろう。教師だった頃、深夜の街頭指導で持たされた発光する棒の方がおれの求める「剣」っぽかったなと思い出す。同僚と自前で効果音つけながら某セイバーごっこをした日が懐かしい。
おれの期待外れ感溢れる微妙な表情に気づいたのか、ハルがにやりと口角をあげた。わざわざ届けに来てくれた支給品に不満そうなおれに対しては、特に腹を立てた様子はない。
気づいていないのか気にしていないのか、見ようによっては、おれの落胆ぶりがお気に召したような感じさえする。やはりそのあたりの感覚は魔王様的なのだろうか。どうでもいいけど、まぁ逆鱗に触れなかったのならよしとしよう。
「…安全そうな剣、だな。」
中途半端に気を遣った結果、妙な感想が出てしまった。ハルはおれの首元にすっと手を伸ばし、ペンダントのチャームよろしくぶら下っている剣を手に取った。
「支給品を届けに来た」
「しきゅうひん」
とりあえずオウム返しに呟いたおれの反応にはさして興味がなさそうに、ハルはズボンのポケットに手を突っ込んだ。クローゼットから登場した割に収納場所は普通のようだ。
「支給品って、なんだっけ?」
「もらえるものはもらっておく」主義ではあるのだが、妙なものを渡されても使い道に困るだろう。そして昨日からの話の流れ上、まさにおれが危惧する「妙なもの」がハルのポケットから登場する確率が非常に高い気しかしなかった。
宝箱の姿をしたモンスター……ゲームなら、自分の勘を信じて迷わず素通りしたいところだ。
「何って、剣だろ。昨日のおっさんから説明受けなかったのか?」
「剣……」
三十路の社会人としては「んな得体のしれないものは受け取れない」とクールに対応すべきだろう。市役所モドキの公認とはいえ、銃刀法とか大丈夫なのかという点も気にはなる。
にも関わらずちょっと「勇者の剣」という響きにときめきかけてしまった。そういえば、おれはもともと中学生とガチで渡り合える心の若さの持ち主なのだ。言い方を変えれば、精神年齢は割と低めだ。
しかしそれをハルに気づかれるのはさすがにどうだと思いとどまり、なんとか無表情を保とうと努力した。
ハルはそんなおれの様子をちらりと一瞥し、それから何を思ったのかポケットから出した手をいきなりおれの首の裏に回してきた。
表情筋に神経を集中させていたために反応が遅れ、今度こそ何らかの攻撃を受けるものかとひやりとしたが、その一瞬のちにはハルは再び元の距離に戻り、相変わらず感情の読み取りにくい顔でおれの胸元を眺めていた。
微かな重みに視線を落とすと、どうやらさっきハルに掛けられたらしいペンダント的なものが視界に入った。先端部分には大きめマジックペンぐらいの大きさの剣のようなモチーフがぶら下がっている。…剣、だ。
「もしかしなくても、これが…剣?」
「そうだ。なかなか似合ってるぞ。ちょっと、紐長いけどな。」
さらりと「チビだ」という趣旨の嫌味を混ぜ込まれたような気がするが流しておく。そんなことより、この世界初のおれの慎ましやかなトキメキを返してほしい。
いまどき、ちびっこのヒーローごっこグッズだってもう少しリアリティがあるだろう。教師だった頃、深夜の街頭指導で持たされた発光する棒の方がおれの求める「剣」っぽかったなと思い出す。同僚と自前で効果音つけながら某セイバーごっこをした日が懐かしい。
おれの期待外れ感溢れる微妙な表情に気づいたのか、ハルがにやりと口角をあげた。わざわざ届けに来てくれた支給品に不満そうなおれに対しては、特に腹を立てた様子はない。
気づいていないのか気にしていないのか、見ようによっては、おれの落胆ぶりがお気に召したような感じさえする。やはりそのあたりの感覚は魔王様的なのだろうか。どうでもいいけど、まぁ逆鱗に触れなかったのならよしとしよう。
「…安全そうな剣、だな。」
中途半端に気を遣った結果、妙な感想が出てしまった。ハルはおれの首元にすっと手を伸ばし、ペンダントのチャームよろしくぶら下っている剣を手に取った。