第185話 統括会・会長の意地 Cパート

文字数 3,945文字


 私が教室に入った時、昨日、私と優希君の気持ちと想いを目の前で見てしまったからか、最近九重さんとよく喋っている実祝さんが、咲夜さんにベッタリついている姿が目に入る。
 まあ、目の前で自分の好きな人が他の女の子と口付けするのを見てしまったら、駄目だって分かってはいても、私だったら絶対学校自体休んでしまっていると思う。
 だからその辺りは目だけで挨拶を交わした実祝さんのおかげだと判断して、自分の席へと足を向けると、
「月森さんと昨日あれから何かあったの?」
 メガネをけん制してくれたのか、重い雰囲気の教室の中、私に話しかけてくれる九重さん。
「あった事はあったけれど、大した話じゃないよ」
 いつも通りに優希君が、私に“好き”を見せてくれただけだし。
「それなら良いけど、岡本さんは月森さんとは距離を置かないの? どう考えても月森さん。岡本さんの彼氏に気があるようにしか見えないんだけど」
 ただまあ、咲夜さんの話をするんだったら、あのメガネからの嫌な視線も考えて、少しだけ話をさせてもらおうかなと思い直す。
「別に距離を置く気はないよ。それに優希君の気持ちはちゃんと知っているし、距離を置く理由はないよ」
 それに一時期の恋愛のイザコザだけで、どうともなっていない私と優希君の関係。それなのに人間関係を切ると言うのはなんだか寂しいし、一期一会からしてももったいないと思う。
「でもあの会長とか島崎君とかもあるし。特に島崎君なんて岡本さんに露骨すぎだって。うちはああ言う焚き付け方するのは好きじゃないし。防さんもそう思ってるんじゃないの?」
 確かに話しかけなくても視線は感じるし、蒼ちゃんなんて咲夜さんの名前を出すだけでも嫌がってしまっている。
「特に昨日のお昼の会長なんて、すごいオーラを出してたんだから」
 すごいオーラって。私のいない所で何をしてくれているのか。この会長の動きもそうだけれど、別に咲夜さんだけが原因なんじゃない。
 男の人の気持ちを全く分かっていなかった私にもやっぱり原因はあったし、時系列で並べてみても会長の気持ちと咲夜さんの行動には因果はないのだ。
 私もそうだったけれど、分かり易い理由と目についた行動がたまたま一致したから、別々の因果を結び付けてしまっただけなのだ。
「みんな知らないだろうけれど、その会長から咲夜さん、二回は会長から怒鳴られるなり、文句言われるなりはしているからね」
 だいたい私の友達に頼っておきながら、手を引く、断ると言って応援を辞めて気持ちを止めるのに怒鳴るってどういう事なのか。
“今まで協力してくれてありがとう”くらいはあっても良いんじゃないのか。
「それも自分が蒔いた種だと思うけど。停学メンバーとつるんでた月森さんをみんな知ってるから、あんまり良い気はしてないよ。特に一人だけ停学期間が短いし。何でもかんでも喋ったらそれだけで処分も軽くなるとか勘ぐってる人もいるし」
 九重さんは何気なく喋ってくれたんだろうけれど、ただの大量停学者だけじゃない。他の理由で教室の雰囲気が重苦しくなっているのも分かった。
「色々教えてくれて嬉しいんだけどさ、咲夜さんに対する責任とか、学校に対する不満とかも重なって今の教室の空気なんだよね。
 だったら今の教室の空気を少しでも軽くするために、咲夜さんを責める空気を変えてみない? ちなみに最近九重さんがよく喋っている実祝さんも、今の教室の空気はしんどいって漏らしてたよ」
 結果が先に出た感想がみんなよく似たものでも、同じ言葉で良いのか分からないけれどある種の集団同調だと思う。
「それは夕摘さんは以前から月森さんと交流があったし、当然と言えば当然なんだろうけど……」
 でも、九重さんの反応と雰囲気を見る限りでは、集団同調とも違う気はする。
「ちなみに私ももう復学したけれど、蒼ちゃんも復学してくれる気ではいてくれているよ。大っぴらに言う事ではないけれど、被圧側に立っていた私たち全員が戻って来るって決まっているんだから、それ以上責める必要は無いんじゃないかな? それに咲夜さんだってもう十分に苦しんではいるよ。あのグループとつるんでいた時から」
 確かに先生には“気持ちがしんどくても出席する処分があっても良いのでは”と言う内容の談判はしたけれど、何も責め苦を受けてもらうためじゃない。一人しんどい思いをしている実祝さんについていて欲しかっただけの話なのだ。
 そしたら実祝さんのお姉さんにも、より咲夜さんの気持ちが届きやすくなると思っての話でもあるし。
「まあ、岡本さんの寛容さは今に始まった事じゃないから仕方ないけど、この話は防さんにも聞いてからの気持ちの結果にはなるかな。ただどっちにしても、あの会長と島崎君みたいなタイプはしつこいだろうから大変だと思うよ」
 もうそろそろ朝礼だからなのか、自分の席へと戻って行く九重さんと実祝さん。
 ただ、今の咲夜さんの様子を見ていると、このまま咲夜さんと喋らないままだと咲夜さんが孤立しかねないからと、今日のお昼は咲夜さん、実祝さんの三人で摂ろうと決めてしまう。
 ついでに言うと、少しでも詳しく今の会長の様子を聞いた上で、今日の統括会までに咲夜さんの協力と会長の感情・恋情にはほとんど因果が無い事を伝えれば、少しは咲夜さんの元気が戻るかもしれないと思いながら。

 そして先生からの朝礼で、改めての連絡事項。

 来週は23日(水)までの四連休となる点。その分しっかりと課題を用意するから取り組むようにと降って湧いたような話でさすがに教室内がどよめき、続けて明日19日(土)~22日(火)の四日間は部活棟完全閉鎖に合わせて、郊外を含めての活動禁止。また、大会などの都合でどうしてもの際には、必ず顧問を通した上で許可をもらった顧問の立ち合いの元で、活動ないしは練習を行う事。
「まあ、お前ら三年はもう引退してるから直接関係は無いだろうが、もし1・2年の後輩が何か企んでそうなら、俺ら“学校側が把握するまで”にお前ら先輩が後輩に注意してやれよ」

 少し驚く。
 大方の内容は同じだけれど、“学校側が把握するまでに”と言う文言が追加されている。
 つまり私たちなり、生徒同士で声を掛け合えばもうほとんどの事故・処分相当は無くなるんじゃないのか。
「先生! それって私たち統括会が事前に把握して解決出来ればって解釈しても良いんですか?」
 それだと、ほとんど定期テスト前の部活禁止期間と変わらなくなってしまう。
「そうだ。もう一つお前らに伝えておくなら、来週以降も週末の土日は持ち回りで先生が学校に常駐する事になる。岡本ならこの意味くらい分かるな」
「ちなみに、それは学校側の判断ですか? それとも――」
「――いや。お前ら統括会からの申し入れだ。学校教育の一環として行われる部活を慢性的に週末全てを失くしてしまっても良いのかってな。今回の事件を学校側自らが責任を認めたのであれば、統括会の理念として学校側で、週末の部活実施の方策を考えて明示して欲しいとの要望だ」
 先生の意外な連絡に、再び教室内がどよめく。さらに他クラスからも聞こえると言う事は、みんな同じ気持ちなのかもしれない。
 私のハンカチで汗を拭きとりながら、予め用意しておいたかのように分かり易く説明してくれる。
 だけれど会長以外にそんな事をやってのける人物に心当たりは無いし、みんな冬美さんを独りにしない様にと必死で彩風さんを説得していたはずだ。
 私なんて教頭先生からの課題に、期限が迫って来ているのも手伝って手一杯で。
 その中で学校全体の決定を一人で覆したのか。今まで何度も何度も会長の手腕を見て来たけれど、一体どんな交渉をしているのか。
 私と話す時は、私への恋情ばかりで交渉の話も彩風さんの話すらも無かったのに。
 それに嫌気がさしているからメッセージにも電話すらも取らなかったのに。
 しかも教頭先生との交渉も門前払いだって聞いてもいたのに。
 誰一人として目を向けていなかった部活問題。やっぱりその手腕と言い、頭のキレ具合と言い学ぶことは多いし、どうしたって尊敬できる部分も多い。それだけに本当に、本当にもったいないなって思う。
 私にばかり熱を上げて、その結果大切な人が見えていなくて。それに、男女の気持ちを抜きにしても明らかに会長から学ぶことは多いのに、どうして全てを感情に流してしまったのか……会長と彩風さんの両方とも。
 もう会長の中で答えが出てしまった以上どうにもならないだろうけれど、もったいないなって思う。
「だから土壇場にはなったが、この案で統括会の会長である倉本が了承したから、今週は直ぐに体制を整える事は出来なかったが、来週からはその形を取るそうだ。その他、担当顧問のローテーションや役割については、それぞれの部活顧問に、来週9月23日(水)以降に確認してくれ。それから分かってるとは思うが、今日は金曜日で統括会もあるからな! それじゃあ午前の授業頑張れよ!」
 そして先生の号令の後、待っていた担当教科の先生が入って来て、午前の授業が始まる。

―――――――――――――――――次回予告―――――――――――――――――
      紆余曲折ありはしたけれど、三人の心が繋がり始める
           その中で迎えた三人でのお昼休憩

                 第一陣
       朱先輩から話。男の人の“狩猟本能”の話をするけど
      やっぱり2人は反対する……その姿は以前とは違っていて

      そして主人公の夢への予約券を手に先生との話の最中に……

             「――岡本……さん?」

            第186話 揺れる感情と恋情
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