十月十五日、土曜日。②

文字数 520文字

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 午前十一時。
 ちょうどいい巨木が見つかった。
 雨のなか、山道を二時間近くも歩きつづけていた一行は、みな一様にホッとした表情を浮かべる。
 無表情でいたのは、彼女だけだった。
 彼女はゆっくりとその木に近づき、濡れた幹に右の耳をつける。
 ざわざわと梢の揺れる音。
 ぬかるんだ土の音。
 雨と雷の音。
 けれど、内側から響いてくる音は、なにもなかった。
「なにをしているんだ?」
 ひとりの男に問われて、彼女は答える。
「心中はしたくないから、()()()()()()()()()()()()の」
「な……っ」
 周囲の人々が、一斉に息を呑んだ。
 憐れみから恐怖へと、瞳の色を変えた者もいる。
 彼女はその視線を、白い全身で受けとめた。
 植物的には生きている巨木に背を預けて、人間的には死んでいる温もりを貪った。
 やがて両手を広げて、動けない人々を促す。
「さあ、どうぞ?」
 やさしく微笑んだ顔を、途切れ途切れの光が照らした。
 彼女の視線の先に見えていたのは、縄を手にした男たちの姿だった。

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登場人物紹介

三池 舞(みいけ・まい) 主人公


大好きな先輩を一途に追いかけている女子高生。

元気が取り柄の前向きな性格だが……

種市 輝臣(たねいち・てるおみ) 舞の先輩


オカルト・ミステリー研究会に所属しているミステリマニア。

自分でも小説を書くため、スマホを使ったトリックを考えていた。

その矢先に……

片町 嗣斗(かたまち・つぐと) 舞の幼なじみ


誰がどう見ても舞のことが好きなのに気づいてもらえない不憫男子。

ライバルには結構容赦がない。

だが、舞が悲しむようなことはしたくないから……

三池 徹(みいけ・とおる) 舞の父


元刑事で、十年前に亡くなっている。

その死には、なにか秘密があるらしい……?

徳山 寅太郎(とくやま・とらたろう) 父の元部下


現役バリバリの刑事。

昔から舞をかわいがっていたため、いろいろ情報を流してくれる。

本当は駄目なんだけど……

三池 誠(みいけ・せい) 舞の叔父


琴田探偵事務所を営んでいる探偵。

なにかと相談にのってくれるため、舞は家族のように慕っている。

今回の事件について、なにか知っているようだが……

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