十月十五日、土曜日。②
文字数 520文字
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午前十一時。
ちょうどいい巨木が見つかった。
雨のなか、山道を二時間近くも歩きつづけていた一行は、みな一様にホッとした表情を浮かべる。
無表情でいたのは、彼女だけだった。
彼女はゆっくりとその木に近づき、濡れた幹に右の耳をつける。
ざわざわと梢の揺れる音。
ぬかるんだ土の音。
雨と雷の音。
けれど、内側から響いてくる音は、なにもなかった。
「なにをしているんだ?」
ひとりの男に問われて、彼女は答える。
「心中はしたくないから、死 ん で い る こ と を 確 認 し た の」
「な……っ」
周囲の人々が、一斉に息を呑んだ。
憐れみから恐怖へと、瞳の色を変えた者もいる。
彼女はその視線を、白い全身で受けとめた。
植物的には生きている巨木に背を預けて、人間的には死んでいる温もりを貪った。
やがて両手を広げて、動けない人々を促す。
「さあ、どうぞ?」
やさしく微笑んだ顔を、途切れ途切れの光が照らした。
彼女の視線の先に見えていたのは、縄を手にした男たちの姿だった。
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午前十一時。
ちょうどいい巨木が見つかった。
雨のなか、山道を二時間近くも歩きつづけていた一行は、みな一様にホッとした表情を浮かべる。
無表情でいたのは、彼女だけだった。
彼女はゆっくりとその木に近づき、濡れた幹に右の耳をつける。
ざわざわと梢の揺れる音。
ぬかるんだ土の音。
雨と雷の音。
けれど、内側から響いてくる音は、なにもなかった。
「なにをしているんだ?」
ひとりの男に問われて、彼女は答える。
「心中はしたくないから、
「な……っ」
周囲の人々が、一斉に息を呑んだ。
憐れみから恐怖へと、瞳の色を変えた者もいる。
彼女はその視線を、白い全身で受けとめた。
植物的には生きている巨木に背を預けて、人間的には死んでいる温もりを貪った。
やがて両手を広げて、動けない人々を促す。
「さあ、どうぞ?」
やさしく微笑んだ顔を、途切れ途切れの光が照らした。
彼女の視線の先に見えていたのは、縄を手にした男たちの姿だった。
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