十月十五日、土曜日。①

文字数 558文字

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 午前九時。
 その日彼女は、自分の家のなかにいた。
 首から提げた朱色のお守りを握りしめ、もしかしたらやってくるかもしれない人々を、待っていた。
 準備は、とうにできている。
 朝いちばんでお風呂に入った。
 洗いざらしの白い着物を身に纏った。
 誰とも交わっていない。
 ただ心だけ、家族のために置いていきたいと思っていた。
 十六年間暮らした、この家に。
 それくらいは許されるだろうと、安易に考えていたのだ。
 ――それが間違いであったと気づいたのは、見送る家族の視線を受けとめたときだった。
「もうおまえしかいないのだ」
 周囲の人々が、そんな目で彼女を見やっても。
「おまえはいつまでも、私たちの家族だよ」
 彼女を生み育んだふたつの目は、誇りに満ちることも、哀しみに暮れることもなかった。
 それを見た彼女は、想いをさらに強くする。
 自分と同じように白い着物を身につけた男たちに手を引かれ、激しく降りしきる雨のなか、一歩一歩踏み出すたびに思うのだ。
 ここに痕跡を残してはいけない。
 もっともっと、早く忘れてもらわなくちゃ――。
 そんな彼女の気持ちを応援するかのように、行く先を明るく照らしたのは、幾度となく空と雲を切り裂く雷だった。

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登場人物紹介

三池 舞(みいけ・まい) 主人公


大好きな先輩を一途に追いかけている女子高生。

元気が取り柄の前向きな性格だが……

種市 輝臣(たねいち・てるおみ) 舞の先輩


オカルト・ミステリー研究会に所属しているミステリマニア。

自分でも小説を書くため、スマホを使ったトリックを考えていた。

その矢先に……

片町 嗣斗(かたまち・つぐと) 舞の幼なじみ


誰がどう見ても舞のことが好きなのに気づいてもらえない不憫男子。

ライバルには結構容赦がない。

だが、舞が悲しむようなことはしたくないから……

三池 徹(みいけ・とおる) 舞の父


元刑事で、十年前に亡くなっている。

その死には、なにか秘密があるらしい……?

徳山 寅太郎(とくやま・とらたろう) 父の元部下


現役バリバリの刑事。

昔から舞をかわいがっていたため、いろいろ情報を流してくれる。

本当は駄目なんだけど……

三池 誠(みいけ・せい) 舞の叔父


琴田探偵事務所を営んでいる探偵。

なにかと相談にのってくれるため、舞は家族のように慕っている。

今回の事件について、なにか知っているようだが……

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