十月十五日、土曜日。③

文字数 624文字

          ┃<<

 午後三時。
 彼女がここにやってきてから、四時間ほどが経過した。
 だが、雨はまだやまずに降りつづけていた。
 雷も、やむ気配なく鳴りつづけている。
 何度も何度も、彼女の濡れた頬を照らし、哀れな姿を見て笑った。
 それでも彼女の瞳には、少しの憎しみも見えない。そこに映っていたのは、梢の隙間から覗く灰色の空だけだ。
 自由に動かすことのできない腕の先、掌を強く握りしめる。
 自分がここに来れば、空は晴れ渡るに違いないと思っていた彼女にとって、その状況は実に屈辱的なものだった。
 このままでは死ねないと、強い想いが湧きあがる。
「――聞こえますか、山の意思よ」
 声がガラガラになる前に、彼女はやらねばならなかった。
「もうあなたのどこにも、あの光を呼び寄せるものはない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。取り除かれてしまった」
 それが人間の身勝手な事情であることも、知っている。
「だから代わりに、わたしが来たの。あなたのために、慰めの歌を歌いましょう」
 罪滅ぼしには、死んでも足りない。
 それも知っていたから、彼女は歌った。
 必死に。
 雨音にかき消されぬよう、力強い声音で。

          >>┃
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

三池 舞(みいけ・まい) 主人公


大好きな先輩を一途に追いかけている女子高生。

元気が取り柄の前向きな性格だが……

種市 輝臣(たねいち・てるおみ) 舞の先輩


オカルト・ミステリー研究会に所属しているミステリマニア。

自分でも小説を書くため、スマホを使ったトリックを考えていた。

その矢先に……

片町 嗣斗(かたまち・つぐと) 舞の幼なじみ


誰がどう見ても舞のことが好きなのに気づいてもらえない不憫男子。

ライバルには結構容赦がない。

だが、舞が悲しむようなことはしたくないから……

三池 徹(みいけ・とおる) 舞の父


元刑事で、十年前に亡くなっている。

その死には、なにか秘密があるらしい……?

徳山 寅太郎(とくやま・とらたろう) 父の元部下


現役バリバリの刑事。

昔から舞をかわいがっていたため、いろいろ情報を流してくれる。

本当は駄目なんだけど……

三池 誠(みいけ・せい) 舞の叔父


琴田探偵事務所を営んでいる探偵。

なにかと相談にのってくれるため、舞は家族のように慕っている。

今回の事件について、なにか知っているようだが……

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み