十月十五日、土曜日。③
文字数 624文字
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午後三時。
彼女がここにやってきてから、四時間ほどが経過した。
だが、雨はまだやまずに降りつづけていた。
雷も、やむ気配なく鳴りつづけている。
何度も何度も、彼女の濡れた頬を照らし、哀れな姿を見て笑った。
それでも彼女の瞳には、少しの憎しみも見えない。そこに映っていたのは、梢の隙間から覗く灰色の空だけだ。
自由に動かすことのできない腕の先、掌を強く握りしめる。
自分がここに来れば、空は晴れ渡るに違いないと思っていた彼女にとって、その状況は実に屈辱的なものだった。
このままでは死ねないと、強い想いが湧きあがる。
「――聞こえますか、山の意思よ」
声がガラガラになる前に、彼女はやらねばならなかった。
「もうあなたのどこにも、あの光を呼び寄せるものはない。音 も 、神 で あ っ た 名 残 も 、す べ て 取 り 除 い て し ま っ た 。取り除かれてしまった」
それが人間の身勝手な事情であることも、知っている。
「だから代わりに、わたしが来たの。あなたのために、慰めの歌を歌いましょう」
罪滅ぼしには、死んでも足りない。
それも知っていたから、彼女は歌った。
必死に。
雨音にかき消されぬよう、力強い声音で。
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午後三時。
彼女がここにやってきてから、四時間ほどが経過した。
だが、雨はまだやまずに降りつづけていた。
雷も、やむ気配なく鳴りつづけている。
何度も何度も、彼女の濡れた頬を照らし、哀れな姿を見て笑った。
それでも彼女の瞳には、少しの憎しみも見えない。そこに映っていたのは、梢の隙間から覗く灰色の空だけだ。
自由に動かすことのできない腕の先、掌を強く握りしめる。
自分がここに来れば、空は晴れ渡るに違いないと思っていた彼女にとって、その状況は実に屈辱的なものだった。
このままでは死ねないと、強い想いが湧きあがる。
「――聞こえますか、山の意思よ」
声がガラガラになる前に、彼女はやらねばならなかった。
「もうあなたのどこにも、あの光を呼び寄せるものはない。
それが人間の身勝手な事情であることも、知っている。
「だから代わりに、わたしが来たの。あなたのために、慰めの歌を歌いましょう」
罪滅ぼしには、死んでも足りない。
それも知っていたから、彼女は歌った。
必死に。
雨音にかき消されぬよう、力強い声音で。
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