十月七日、木曜日。③

文字数 1,984文字

『――はい、琴田探偵事務所です』
「あ、あの、柳町の種市といいますが……」
『ああ! 種市さんのところの息子さん――輝臣くんですか?』
「えっ? な、なぜ名前まで……」
『フフ、お母さまがよくお電話をくれますし、きみの後輩の三池舞ちゃんや片町嗣斗くんは、事務所によく遊びに来ていますからね』
「それは知っていますが、オレの話なんてしているんですかっ?」
『ふたりとも部活を楽しんでいるようですから。他に妖怪先輩の話もしていましたよ』
「そうですか。部室に来ても退屈しているんじゃないかと思っていたので、嬉しいです」
『――それで? 今日はどうしたんです?』
「ああ、そうでした。あの、ちょっと変なことを訊きますが、琴田さんは『死を招く言葉』という話をご存じですか?」
『ええ、数年前からネット上で噂になっている都市伝説ですね。それがなにか?』
「実は、その『死を招く言葉』と思われる言葉を偶然聞いてしまったんです。まったく知らない人が落としたスマホを拾って……」
『それに電話がかかってきたんですか?』
「そうです。男の人の声で、『()()()()()()()()()()()()』と」
『――なるほど、実に怪しいですね』
「やっぱりそう思いますか!? 実はオレ、以前からこの都市伝説のことを調べていて……今回この言葉を聞いてしまったあとも、色々と調べてみたんですが、やっぱりどれが本物なのか確証が得られなくて。オカミス研の部員たちにも相談しようか、かなり悩んだんですよ。でも、もし本物だったらまずいと思って、まだ言っていません。相談しなくてよかったー」
『賢明な判断でしたね。真偽はどうであれ、聞いてしまったらいい気はしないでしょうし。きみも、これ以上人に話さないほうがいい』
「もちろんです! オレが話さなければ、言葉は一周しない。オカミス研としては惜しい研究材料ですが、さいわいオレはミステリー側の人間なので、我慢できます」
『ハハ、それはよかった。僕が代わりに調べてみますから、安心してください』
「本当ですか!? 助かりますっ。――あ、でも、料金かかりますよね。おいくらです?」
『学生さんからはいただきませんよ。その代わり、ひとつ質問に答えてくれませんか?』
「え? オ、オレに答えられることなら」
『きみにしか答えられません。僕が訊きたいのは、きみの気持ちですから』
「というと?」
『きみは、舞ちゃんのことが好きですか?』
「えっ!? あ、あの…………好き、です」
『本当に?』
「冗談でこんなこと言えませんよ! しかも()()()()と仲のいい人に!!
『ああ、それもそうですね』
「からかっているんですか!?
『違います。たんなる意思確認ですよ』
「なんのために……っ?」
『なんのためでしょうね? 僕にもわかりませんが、ふと、訊いてみたくなったのです。でも、こうしてちゃんと答えてもらったからには、責任を持って『死を招く言葉』のことを調べますから、安心してくださいね』
「ま、舞ちゃんには言わないでくださいよっ? オレ、先週の日曜日に、舞ちゃんに告白しようと思って、蒼林市の駅前に先まわりしていたんです。片町と一緒のときに言って、宣戦布告をしてやろうと……」
『もしかして、そのときにスマートフォンを拾ったのですか?』
「ええ、そうです。それで出鼻を挫かれてしまった。こうなったらもう、このことが解決しないと、気になって告白もできない――だから、お願いします琴田さん! オレが訊いたものが本物の『死を招く言葉』なら、どうしたら言葉の効力を打ち消すことができるのか、調べてください! このままでは、ついうっかり口にしてしまいそうで怖いんです」
『寝言で言ったのを、舞ちゃんに聞かれでもしたら困りますからね』
「ええ――って、そ、そ、そこまでのことは想定していませんがっ!?
『いいんですよ、照れなくて。充分にありえた未来ですからね。――わかりました、任せてください。()()()()()()()()()()()()()()()()()、してあげますから』
「お願いします!」
『ですからきみは、なにがあっても舞ちゃんを守ってあげてくださいね』
「えっ? えーと……ま、任せてください!」
『その意気です。ではまた』
「あ、はい。話を聞いてくださってありがとうございました!」
『こちらこそ、()()()()()()()()()()()()()()

(了)
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

三池 舞(みいけ・まい) 主人公


大好きな先輩を一途に追いかけている女子高生。

元気が取り柄の前向きな性格だが……

種市 輝臣(たねいち・てるおみ) 舞の先輩


オカルト・ミステリー研究会に所属しているミステリマニア。

自分でも小説を書くため、スマホを使ったトリックを考えていた。

その矢先に……

片町 嗣斗(かたまち・つぐと) 舞の幼なじみ


誰がどう見ても舞のことが好きなのに気づいてもらえない不憫男子。

ライバルには結構容赦がない。

だが、舞が悲しむようなことはしたくないから……

三池 徹(みいけ・とおる) 舞の父


元刑事で、十年前に亡くなっている。

その死には、なにか秘密があるらしい……?

徳山 寅太郎(とくやま・とらたろう) 父の元部下


現役バリバリの刑事。

昔から舞をかわいがっていたため、いろいろ情報を流してくれる。

本当は駄目なんだけど……

三池 誠(みいけ・せい) 舞の叔父


琴田探偵事務所を営んでいる探偵。

なにかと相談にのってくれるため、舞は家族のように慕っている。

今回の事件について、なにか知っているようだが……

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み