第15話 地獄の新人研修

文字数 760文字

 年に一度、新人は本部に呼ばれ、守護霊としての心得を教わる。講師に来るのが、鬼教官。いや、これが本物の鬼。
 「みなさんは守護するんですよ。つまり、ガーディアン。屈強な鋼の体と心が必要です。これから、体操を始めます。その後は、山に登って発声練習。」
 死んでまで、体力づくりって何?意味あんの?

 初日は、赤鬼教官による実技。次の日は心得の説法を受ける。
 「昨年までは、仏の説法でしたが、生ぬるいということで、今回から青鬼に来てもらいました。」
 あの世で山といえば、仏の住む須弥山。仏の世界といえば、花咲き乱れ、かぐわしい香りと優雅な音楽。みな、うきうきしていた。
 「さあ着いたぞ。」
 赤鬼の背中越しに銀色に光り輝く鋭い丘があった。
 「地獄名物、針の山。血の池渡って突き進め。」
 鬼!。なんで罪人でもない俺たちが。
 「はいはい。騒がない。罪人の苦しみを体験することで、本気で守護する気持ちになるでしょう。そうそうオプションでバンジー体験もできますよ。芥川先生監修による、通称、蜘蛛の糸。命綱?いりません。みなさんすでに死んでいるんですから。」

 一行の中に、どうみても新人に見えないアロハ姿の連中がいる。
 「わしらは、免許更新じゃ。歳だからな、登山ではなく地獄温泉体験じゃ。」
 いいなあと思ってみていると、
 「彼等は、ほとんど元ジニン党の人たちです。上級霊特権ってやつです。ハワイ好きな元スポーツ選手もいますよ。」
 と、隣にいた添乗員の死神が解説してくれた。
 「自主返納を勧めているんですが、なかなか応じてくれません。」

 翌日は、青鬼先生の青空教室。採点の方法や基準の改正内容を中心に学ぶ。
 「みなさんは、無事故無違反ですから次回からゴールド免許になります。10年間の研修免除です。」
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