第9話 ヤミ営業

文字数 903文字

 いつもは家にいる、功のやつが、めずらしく外に出かけた。親の残した貸家の家賃収入で暮らしている彼にとって、働くという選択肢はない。必要なことは管理会社がやってくれる。なにもせずに月々決まった収入が入ってくる。
 そんなやつが、最近メイド喫茶にはまった。週一で入る子目当てに毎週同じ日の同じ時間に出かける。秋葉原の駅を降りて、いつもの店の前に来た。しかしこの日は様子がおかしい。裏方の調理担当のバイトが捕まったというのだ。会社を病休して、バイトに来ていたらしい。しかもインフルエンザ。会社からは給料をもらい、バイト代ももらう。
 『病営業』

 メイドたちは飲み物だけで客の対応をしている。
 「ご主人様、どなたか調理やってくれません。バイト代はずみますから~。」
 そういわれても、こんあところにくるのは、もてない学生か疲れたサラリーマンぐらい。かくれて勝手にバイトできるはずもない。それこそ、『闇営業』になってしまう。

 「僕ならいいよ。」
 よりによって、功のやつがOKだした。
 「すご~い。かっこいいです~う。」
 推しメンの彼女が言葉巧みに持ち上げる。確かに困っている連中を助けられればポイントも増える。しかし、こいつにまともに務まるのか?
 そう思ってみていると、功のやつ客が入ってくるなり、冷凍庫から品物を出し温め始めた。
 「まだ、席についてもいないのに、何やってるだ。もしかして、押し売りか?」
 どうにも、解せない彼の行動。

 やがて、客が席に着く。それと同時にレンジの音が鳴る。
 「チン。」

 「いつもの。」
 客の言葉に、
 「愛のオムライスですね。」
 担当のメイドが大声で叫ぶ。
 「やっぱ、覚えててくれたんだ。」
 客の男はにこにこしている。
 「お待たせしました。」
 「え?!もうできたの?」
 功の温めた料理を持ってきた彼女に、客は驚いている。
 「はい?いつも同じ時間に来てくれるので、今日は特別に用意しておきました。てへぺろ。」

 大抵の客が常連でいつも同じものを頼むからって、功のやつ店に来ているそいつらのメニュー覚えているのか?とんだスキルじゃないか。
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