二〇、、、
文字数 2,906文字
スーパーバイザーは説明を始めた。
「穴はコチラで塞げるんですけど、問題はスグにまた開きかねないってことなんスよ」
が、説明を始めてすぐ、厭味な表情を浮かべて岬と鈴華を見る。
「なにせコチラの岬悠人さんが、鈴華さんの想いに反応して、ふらふらとスグに
岬と鈴華が返す言葉もなく固まってしまうとスーパーバイザーは、ウンウンと一人で納得したふうになり、それから真面目な顔になって続けた。
「──冗談ぬきに、〝穴〟が塞がらないのは岬悠人さんが原因です。
本来〝
鈴華も真面目な表情をスーパーバイザーに返した。
スーパーバイザーは続ける。
「だから〝
鈴華は、少なくともそれを受け入れる理由を理解はしていると、そう自分を励ましてスーパーバイザーの言葉に耳を傾けた。
「これはアタシら
鈴華がスーパーバイザーを見返す。
「それにこれは……」 スーパーバイザーは、チラと、岬を見て言う。「…──岬悠人さんの〝願い〟でもあります」
鈴華がそれに応えるのに、数秒はあった。
「わかった」
なんとか岬が口を開く前に、鈴華は頷いて応えることができた。
岬の方を見ることなく、スーパーバイザーに訊いた。
「それで、わたしは何をどうすればいいの?」
「それは〝行ってみないと〟わかりません」
鈴華の問いにスーパーバイザーは申し訳なさそうに笑って言った。
「でも、行けばわかるハズなんです。アナタが行けば」
「…………」
ここでさすがに鈴華は身構えてしまったが、そんな鈴華にスーパーバイザーは追い撃ちをかけた。
「あ、それと例の〝影〟……、アレも
一気に不安になった。
何をどうすればいいのかわからないままに、〝
その上、あの〝影〟……。
…──わたしの生み出した〝妄執〟だという、不穏で、得体の知れない、〝気持ちの悪い〟モノが、わたしのことを
「…………」
でも、そんな
すると……、
「だいじょうぶ…──アタシもご一緒しますから」
スーパーバイザーが、優しい笑いの顔でそう言った。
「え?」
鈴華はこのとき、はたと気付いた。 ──…スーパーバイザーは〝自分たちには出来ない作業〟とは言ったが、
「じゃあ……?」
そう訊くと、スーパーバイザーは
「ハイ。直接手伝うことはできないんスけど、案内と、指示の方、サポートさせて頂きますので」 と。
「…──ま、俺も、行くしな」
となりで岬が、当たり前のことのようにそう言うのが聞こえた。
岬が、そういうふうに、そう言うのはわかっている。それでも鈴華は、その言い方と言葉に安心を覚える。
鈴華は、少し落ち着いて覚悟の定まった表情になって、スーパーバイザーに頷いた。
スーパーバイザーは頷いて返すと、また黒手袋をはめた右手を顔の横に持ってきた。
そして〝パチン〟と鳴らすと、
斜に構えた案内人の身体の先に、鈴華は
「これが、その〝穴〟ね?」
直径で一メートルほどの漆黒の球が、収穫を終えた畑の
木柱に吊られた裸電球の光に、楕円の影が出来ているのが
「いきます……」 岬の他、息を呑む一行に背を向け……、「付いて来てください」
スーパーバイザーは先に立って黒い球に近付いていく。と、傍らに立つ間もなく、あっと言う間もなく穴に吸い込まれてしまった。
──えっ? ……えぇぇっ⁉
ちょっと思っていたのとは違った潜り方──もっと自分の動作で入っていくものだと思っていたのに…──に驚く
それから、なにが何やらわからない瞬間を
鈴華が目を瞬かせ、辺りの様子を窺うと、周囲に人影が3つ……。
え? と、人影ひとりひとりに目線をやって、その中に和子が居ることを確認すると、鈴華は声を上げていた。
「和子⁉ ちょっと、あんたなんで……? なんであんたも来ちゃってるの⁉」
「そりゃ来るよ」
悲鳴にも似たその鈴華の声に対し、和子の声の方はわりと平静なものだった。
鈴華はゆっくりと頭を巡らすとスーパーバイザーを見やり、どういうこと、というふうに目で訊いた。
スーパーバイザーは、え? 何か問題が? と不思議そうに首を傾げ、両手を広げて返してきた。
鈴華は息を吸うと、声を大にしてスーパーバイザーに詰め寄った。
「この子はダメ! あぶないことに巻き込めない‼」
言い寄られた方のスーパーバイザーは、え? え? と困ったような表情で鈴華と和子との顔に目線を往復させる。
「鈴華……ねぇ、ちょっと……」 和子はそんな二人に割って入った。「…──鈴ぃ華っ‼」
けっこう強い語調で割って入られ、鈴華は首をすくめるように和子に向き直る。
和子は真っ直ぐに鈴華を見て言った。
「あんたが来て、あたしが来ないなんて理由はないよね?」
「…………」
鈴華が言葉を選び始めると、業を煮やしたように問い重ねる。
「じゃさ、あたしが高橋のためにここに来ることになったら、鈴華は来ない?」
「……来たよ」
それに対する答えは即答だった。
和子は頷いた。
「でしょ? だからあたしも来たんだよ」
「…………」
それでも鈴華が伏し目がちとなると、和子はいよいよしっかりとした語調で訊き直す。
「鈴華。あたしは鈴華の何だ?」
「……〝
そう応えて面を上げた鈴華の目を念押しするように覗き込んで、和子は確認する。
「やっと思い出した?」
鈴華は頷いて返した。その目に感謝と涙が浮かぶのを見て、和子ははっきり照れた表情で笑うと、いつの間にか二人から離れてこの先の様子を窺っていたスーパーバイザーの横に立つ人影を指して言う。
「じゃ、いこ。もう来ちゃったし、岬があんたを待ってるし」
岬は二人を振り見やっている。
鈴華は、もう一度頷いて、目の端の涙を手の甲で拭って言った。
「和子、ありがと」
二人はどちらからともなく笑って、それから小走りになって、先で待つ岬とスーパーバイザーに追いついた。