4節
文字数 1,945文字
多くの質問はやはりどの様に低価格化を実現したのか、という事に焦点が絞られていた。
「とにかく徹底して無駄を無くしました。
あらゆる製造工程を一から見直し効率化。加えて余計なオプション機能を排除し、本当に必要な機能のみに留める事で完成までの工数を最小化しました。」
「そうすると耐久性や安全性に問題が生じるのでは?」
「その点はご安心を。
我らがデネブ工房長が監修した設計です。万に1つも問題は起こりません。」
「「「おぉ〜〜!!」」」
デネブ技師の名前が出ただけで歓喜に似た驚きの声が上がる。彼のネームバリューの高さが伺える。
続いてもう1つのアピールポイント。シグナスエンジンの話題に移る。
シグナスエンジンと言えば造れるのはデネブ技師だけ。それだけ精密な技が必要とされるからだ。
今回そのシグナスエンジンも設計を見直し、性能そのままに他の技師でも造れる様に簡易化する事に成功した。
『シグナスエンジンII型』と銘打たれたこれは、ここ数年での一番の発明だと豪語する。
「これらの成果により製造に掛かる時間を大幅短縮。大量生産に成功しました。
発売は3ヶ月後を予定していますが既に1万台を製造済みです。
それでも足りない場合は次の生産を待って頂くしかありません。
こちらとしては嬉しい悲鳴ですがね。ハハハッ!」
あらゆる面で大ヒットに向けて抜かり無し。
アンサーの自信満々の受け答えと余裕の笑みからは微塵も不安要素は見当たらない。
……だが何故だろうか?
出来過ぎというか、都合良過ぎというか。ダメなとこが見当たらないのが逆に怖い。
「もしかして何か裏があるんじゃ……」
「まさか。世界で最も信用されている工房ですよ。」
「いえいえ、なかなかいい勘してますよ。フフフ。」
出た。人の秘密を見透かしてますよと言わんばかりの、アルデバランの不快な笑み。
今日はスピカに向けられてる訳ではないが、それでもやはり嫌悪感を覚える……
(殴りたい、この笑顔……)
進行が質疑応答の時間をそろそろ終わりにすると宣言し手が下がり始めたのを見計らい、アルデバランが手を挙げる。
確実に当ててもらう為かもしれないが、終わりだと言われてから手を挙げるのも性格が悪い。
「コスモス新聞社の者です。
近年シグナス製を騙った粗悪品が急増していますが、それに関する対策は行なっていますか?」
「それは売り手側の問題だ。作り手であるこちらが対処すべき課題では……」
「政府からも要望が出ている筈ですよ。
本物と偽物を見分けられるように、独自のシリアルナンバーを印字するなどの対策をしろと。」
「ムっ……
さっきも言ったが工数はできるだけ減らしたいのだ。そんな手間は……」
「番号を振るだけの作業がそんなに手間ですかね?」
確かにアルデバランの言う通りだ。ブランドイメージを守る為にも偽物対策は必須だと思われる。
あれだけ売るための努力を惜しんでないのに、何故番号を入れるぐらいの事をやっていないのだろう?
何故か歯切れが悪くなるアンサー。
追い討ちをかける様に、アルデバランらしい嫌味口調でこう問い詰める。
「対応したくないのには他の理由があるのでは?
例えば……、本物と偽物を見分けられちゃ困るとか。(ニヤッ)」
どういう事だろう?
偽物を造られて一番困っているのはシグナス工房の筈。見分けられる様になって困る理由なんて無い筈だが……?
「貴様、何が言いたい……ッ!?」
アンサーの声色が明らかに変わった。今までの印象良いハキハキとした軽快な口調から、低く威圧する様な声へ。
その様子に何かを確信したのか、アルデバランはそれ以上追求する事はしなかった。失礼な訊き方をした事に対して口先だけの謝罪を告げる。
悪い空気を察した進行役が慌てて質疑応答の締める。
アンサーが壇上を降りる時、一瞬アルデバランに向けた流し目、不機嫌なだけの目ではなかった。
殺意。そう表現しても過言ではない程その目には鋭い敵意が込められていた。
それを受けてアルデバランは……笑っていた。
口元を隠しながら肩を震わせる。
「クククッ……!!
何度やっても最高ですねぇ、上機嫌になってる奴を不愉快にするのは!」
「うわぁ……」
「( ̄ω ̄;) ヒクワ~」
スピカとビエラがドン引きしているのを気にも止めず、アルデバランがスッと席を立つ。
「さてと、次の取材現場に行きますか。
よろしければ御三方も一緒に行きますか?」
「何で私達が付いて行かなきゃいけないんですか……」
「よろしいんですか?
これからデネブ技師に会いに行くんですがね。」
「はぁ!?
居場所知ってるなら早よ言えやッ!!」