異聞
文字数 1,793文字
それは同時に宗派間の諍いの始まりでもあった。争いは時に何百万、何千万という人を巻き込み、血で血を洗う惨劇にまで発展した。
現代ではその暗黒期を『宗教戦争時代』と呼んでいる。
その頃生まれた星教会ももちろん例外ではなく、幾度となく他宗派から攻撃を受けていた。
そこで星教会とその信奉者達を護ることを信条に立ち上がった者達が現れた。彼らこそ後の星騎士団である。
星騎士団はその後900年以上に渡り星教会と、その本拠であるコスモスの街を護り通してきた。
しかし、そんな星騎士団が80年前を境に急に落ちぶれ始めた。そのきっかけとなったのは、とある平和条約である。
それは一切の軍事力を持たない事を条件に、コスモスの不可侵を認めるというもの。この条約のお陰でコスモスはいかなる国からも(表向きは)侵略を受ける心配が無くなった。
しかし、この条約で星騎士団は大幅な弱体化を余儀なくされる。
装備は殺傷能力の低い物のみになり、大規模な演習や訓練も行えなくなった。
そうなると必然的に騎士の練度は落ちる。練度の低下はモチベーションの低下に繋がり、モチベーションの低下はモラルの低下に繋がった。
結果、「汗臭い訓練なんかよりも、見栄え良くした方がカッコいい」などと言う子供みたいな意見が出て来る様になり、戦いの技に反して見た目だけは磨かれた。
仕舞いには新米の査定基準に”顔”、”身長”、”私服センス”などが加わった。つまり”イケメンである事”が入団の暗黙条件になったのだ。
そんな惨状なので本来の役割である警備や警護の任に当たる時も、ダルそうにただ突っ立っているだけの騎士が散見。楽をしたいから星騎士なったという者まで出て来る始末。
見た目だけで中身が無いただの置物。そんな意味を込めて『お飾り騎士団』なんて蔑称も囁かれ始める。
かつて国を守るために奮闘していた騎士達への信頼は、目に見えて急落していった。
そんな中、「国を、人々を護りたい」という純真無垢な理由で騎士なった者がいた。
それがリゲルだ。
「見た目なんて騎士には関係無い。
必要なのは強さと優しさだ!」
そんな子供みたいな理想論を掲げるリゲルは、やる気のない怠け者や女ったらしの遊び人が大半を占める現代の騎士団では異質だった。
リゲルは毎日の様に「街に出て巡回しよう」「もっと訓練しよう」と提案するが、誰にも見向きされない。それどころか煙たがられ、雑用ばかり押し付けられるなどの嫌がらせを受ける事も多かった。
ところが団内での扱いに反し、生来の美形やスタイルの良さが受け女性人気を独占。
見た目第一の星騎士団において女性人気がある事は何よりも評価される。
結果、リゲルは若くして団長にまで選ばれた。
見た目は関係ないと言っていたリゲルが、皮肉にも見た目によって地位を得た。
しかしリゲルは持ち前の鈍感力で、自分の考え方が受け入れられたと勘違い。星騎士団の世間からの評価を覆そうと大胆な改革を推し進め始めた。
本来の役割を全う出来るよう、武術訓練の時間を大幅に増やした事は当たり前。
加えてもっと国民に寄り添う為、住民間のトラブルや人探しなど警察が手を出し難い案件に積極的に当たるようになった。
良い事なのだが改革には反発が付き物。
「今までの方が良かった」「こんなの騎士の仕事じゃない」「若造が調子に乗るな」と、年長の騎士達を中心に続々と退団。
団員数は1年足らずで半分以下になり、平均年齢は26歳と若手ばかりになった。
そんな組織崩壊寸前の中、リゲルにより副団長に任命されたドゥーべ。
この時、彼はこう思っていた。
(俺も楽したいから入った勢なんだが……
ま、どうせもうすぐ潰れるだろうし、同期のよしみで最期まで付き合ってやるか……)
この予想に反し、ここからが意外としぶとかった。
団内の膿を出し切ったからか。地道な努力の成果が出始めたからか。
或いは理想論者のリゲルと現実論者のドゥーべがぶつかり合い、奇跡的に良い感じのバランスになったからか。
理由は定かではないが、徐々に星騎士団の活動が認められる様になって来た。
だがまだまだ『お飾り騎士団』の汚名は定着したまま。
今後それを返上し、かつての誇りと栄光を取り戻せるかは、彼らのこれからの活躍に掛かっている。