9節

文字数 1,676文字

——2日後。

 夜は真っ暗になり誰も出歩く事がない農園区。
 しかしこの日は多くの人が一処に集まり、ハマルの葬儀が粛々と進められていた。

 その様子を空から見下ろす6つの人影。
 花圃の魔女率いる、夜宴の魔女達だ。

「アークいないじゃん。
 何やってんのアイツ?」
「今のアイツが大勢いる場所に顔出せる訳ないじゃん。
 姿消してコッソリ参加してんじゃない?知らんけど。」

「それより予定通りアークを連れ戻せて良かったよね。
 勝手にメンバー減らしたら罰が怖いもん。」
「アイツもうアタシらに逆らえないだろうし、今からコキ使うのが楽しみぃ♪」

 あんな事をさせよう。こんな事をさせよう。
 上機嫌でゲラゲラと笑う魔女達。そこに花圃がプスリと釘を刺す。

「ダメよ。あの子を可愛がってイイのはアタシだけ。」
「え?」
 
「忠実な子程カワイイもん。元々反抗的だった子は特にね。
 だからアタシ専用。
 アナタ達ももっとカワイくしてくれないと、アタシ飽きちゃうかも。」
「じょ、冗談辞めてよ……!!
 仲良しなのが私達のグループのイイとこじゃん!ね?」

「なら何も言わなくても欲しい飲み物買って来てくれるよね?
 一番気に入らないのを買って来た子に罰ゲーム♪」
「わ、わかった!すぐ行くから待ってて!!」

(はぁ……、イイわぁ♡
 この媚びて擦り寄ってくる感じ。最ッ高♡)

 慌てて飲み物を買いに行く取り巻きの姿を見て、恍惚とした表情を浮かべる花圃。
 その彼女の前に、幾度となくアークを見つめていたあの影が現れる。

「あら?何か用?」
『まだ気を抜くのは早い。』

「どういう意味?」
『以前も後ちょっとのところで失敗したのを忘れたのか?
 この街には”あの女”がいる。助けに来られたら厄介だ。』

「前にアークを助けたっていう女の事?
 大丈夫よ。あの子の心は完全に折れた。目の前にいても助けを求めないわ。」
『助けを求めずとも助けに来る女だから忠告している。』

「はいはい。
 それにしてもあなたって鬼畜よね。
 まさかここまでするとは思わなかったわ。」
『…………』

「マジで自殺してもおかしくなかったわよ?
 その方がアンタにとっては嬉しいのかもしれないけど、流石の私もドン引きって感じ?」
『……好きに言えばいい。私はもう行く。』

「なに?クズのくせに一丁前に怒ったの?
 キャハハハッ!!」

 話をしている間も葬儀は滞りなく進み、残すは最期の行程のみとなった。
 それを始める前に、葬儀の進行役が故人に捧げる礼讃の言葉を語る。

「ハマル=エリース農婦は誠に親の心を持つ御仁でした。
 教育の為ならとご自身の畑をお貸し下さり、拙いお手伝いのご褒美として収穫物を無償で分けて頂いた事を、私は強く覚えています。
 彼女の慈愛に満ちた笑顔は、子供達に知識以上に大切な事をお与えになった事でしょう。

 彼女の行いは神にも及ぶ尊いものです。
 『転星の儀』にて彼女の功績を讃えましょう。
 それでは皆さん、儀式の場へ移動を……」

「待ってくれッ!!」

 突如、誰かが式の進行を止めた。
 葬儀の参加者が揃って声のした方向を向く。
 そこにいたのはずっと姿が見えなかったアークだった。

 急いで来たのか何やら息を切らしている。だとしたら何処で何をしていたのだろうか?
 皆の注目が自分に集まったのを確認したアークは強い眼差しで語り出す。

「今ここで言わなきゃいけない事がある。
 農園区のみんなは知ってると思う。ここ最近、不自然な不幸な事が連続してる事を。」「あ……」「それは……」

「あれは……ワシのせいだ!
 本当にすまないッ!!」

 急の出てきて何をする気かと一瞬身構えた花圃だったが、ただの謝罪なら好きにさせてイイだろうと構えを解く。
 だが、ここから話は彼女が全く予想していなかった内容へと発展する。

「だが、これだけは否定させてくれ!
 みんなが恐れている“魔女は運を吸い取る”という噂は……真っ赤なウソだ!!」

 なんと、件の噂をはっきりと否定したのだ。
 それが何を意味するのか。言わずとも分かるだろう。
 穏やかだった花圃の感情が、一気にフツフツと沸き上がる。

「あのクソガキ……ッ!!」
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登場人物紹介

名前:スピカ=ウィルゴ

性別:女

年齢:27

身長:162センチ

この物語の主人公。

基本は優しい心の持ち主だが平和主義者というわけではなく、必要とあれば荒事も辞さない。

有り過ぎる行動力と小賢しい悪知恵が働く以外はごくごく普通の一般人。

名前:ビエラ

性別:女

年齢:?(見た目は7歳くらい)

身長:117センチ

準主人公。

何故か一切声を出すことが出来ない。その代わりなのか感情に合わせて動きを変える、アホ毛の様なもの(触覚?)が頭頂部から生えている。

性格は奔放で好奇心旺盛。なのにビビり。

名前:アクルックス=クルス

性別:男

年齢:30

身長:188センチ

第2章のキーパーソン。

大柄で逞しい体躯を持ち、素行には大人の落ち着きがある。愛娘が一人いて、名前は”ミモザ”。

彼と知り合ったことをきっかけに、スピカ達はとある猟奇事件に巻き込まれる。(2章へ続く)

名前:アークトゥルス=ボーティス

性別:女

年齢:18歳

身長:155センチ

第3章のキーパーソン。

やや素直さに欠けるが根は真面目で勤勉。このお話では貴重な十代女子。

農夫達からの依頼で農作物を荒らす魔女の解決に乗り出したスピカ。その正体がなんと彼女だった。(3章へ続く)

名前:アルタイル=アクィラ

性別:男

年齢:51歳

身長:175センチ

第4章のキーパーソン。

宇宙や世界の真理を探究する高明な学者。『三賢人』と呼ばれる3人の天才の一人。

彼がビエラに関する情報を持っていると聞いたスピカは、彼の働く学術院を訪れるが…(4章へ続く)

名前:カノープス=カリーナ

性別:女

年齢:28歳

身長:161センチ

第5章~第6章のキーパーソン。

おっぱい担当兼、物語の核心に絡む角の生えた美女。しっかり者だが若干天然が入っている。

ビエラと関係があるかもしれない謎の飛来物の調査に来たスピカ一行。そこで偶然彼女と出くわす。(5章へ続く)

名前:リゲル=オリオン

性別:男

年齢:28歳

身長:176センチ

第7章のキーパーソン。

女と見紛うレベルの超美形。それでいて中身も聖人君子の出木杉君タイプ。

仕事でとある人物の護衛の任についていた彼は、その過程で思いがけず"裏の人間"と邂逅する。(7章へ続く)

名前:デネブ=シグナス

性別:男

年齢:50歳

身長:168センチ

第8章のキーパーソン。

数々の名品を生み出してきた機工技師。アルタイルと並ぶ『三賢人』の一人。

彼、強いては彼が代表を務める工房の力が必要になったスピカ。しかしその工房はある男に乗っ取られていた。(8章へ続く)

名前:花圃の魔女(本名不明)

性別:女

年齢:23歳

身長:159センチ

第9章のキーパーソン。

アークトゥルスの元仲間。手下を従えて群れるのが好きなお局気質の女性。

平和に暮らしていたアークの元に突然現れた彼女は、魔女である者は決して逃れられない"悲運"を告げる。(9章へ続く)

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