2節
文字数 1,133文字
紙に書かれていた場所は意外にも星教区だった。
目的地に着くと教会関係者らしき人が待っていた。誘導されるまま付いて行くと、ひとつの部屋に通される。
扉を潜ると部屋の中には1人だけ、それも見覚えのある先客がいた。
「君は農園区の!?」
先に部屋で待たされていたのは農園区の魔女、アークトゥルスだった。
「君も呼び付けられたのか?」
「ああ。ハマルの婆さんから急に手紙だって渡されてな。
5分前に着いたところだ。」
(5分前行動……、この子さては真面目だな?)
2人とも薄々気付いていたが、この顔合わせで呼ばれた理由を確信する。
「やはり人外は放置できない、という事か……
まだこの街を離れたくなかったのだが……」
「ワシは別に構わん。
いつまでも畑仕事を手伝わされたんじゃ、たまったもんじゃない。」
魔獣と魔女。どちらも人ならざる者。
持っている力は人間を遥かに凌駕する。一度暴れ出せば、大した武力を持たないこの国では抑える事も難しい。
そんな危険な存在を野放しにはできない。と考えるのは当然の判断だろう。
街を出て行けと言われるだけならまだマシだ。
魔獣や魔女は滅多お目にかかれないレア物。彼らを研究したがっている者は多い。
この瞬間にも部屋に睡眠ガスが撒かれ、研究施設に閉じ込められモルモットに……
なんて事も、あり得ない話じゃない。
「ネカルや人形達に外を見張らせているが、今のところ変な動きはないな。」
「油断するな。
何かあったらすぐ逃げる。その時は俺に任せろ。」
「ナメるな。
人間から逃げるくらいワシ1人でも……」
「待てッ!
誰か来る!」
アルクはいち早くこの部屋に近付く者の気配に気付いた。
数は1人。かなりゆっくりした足取りだ。しかも杖を付いている。
2人の注目が扉に集まる。
顔を覗かせたのは温和そうなふくよかなご老人だった。
「急にお呼び立てしてすみません。
私は星教会の代表を務めているプロキオン=マイラという者です。」
丁寧に挨拶するプロキオン。だが2人は決して気を許さない。睨む様にプロキオンを見据えたまま、早速本題に切り込む。
「俺達を呼んだ理由は?」
「そう緊張する必要はありませんよ。
少しお話がしたかっただけです。
”魔人”のお二人とね。」
「「魔人??」」
初めて聞くワードにアルクとアークは不思議そうに顔を見合わせた。
その様子を見てプロキオンは察する。
「おや、どうやらご自分がなんと呼ばれるべき存在かもご存じない様ですね。
どこから話したものか……」
そんな事を呟きながらプロキオンは腰を落ち着ける。
彼はゆっくりと2人の目を順番に見つめた後、静かに語り始めた。
「ひとつ年寄りの昔話を聞いて下さるかな?
その昔存在した、とある国のお話を。」