8節
文字数 1,250文字
相対する吸血鬼も顔から余裕が消えた。翼が一回り大きくなり、瞳孔が蛇の様に細くなる。
間違い無い。ここからが本気の戦いだ。
その貼り詰めた空気に傍のスピカも思わず固唾を呑む。
(多分今の内に逃げた方がいいんだろうけど……
どんな勝負になるのか普通に見たい……!!)
先に動いたのはアルク。目にも止まらぬ速度で吸血鬼に襲い掛かる。
拳が叩きつけられると地面が抉れ土煙が舞い上がる。尋常ではない強大な力を持っている事は一目でわかる。
力が強いだけじゃない。空に飛び上がった吸血鬼を高い跳躍で追い掛け上空に先回り。今度は姿を消され死角に入られたが、驚異的な反射神経でそれを見切り攻撃の隙は与えない。
その俊敏な動きに吸血鬼は反応し切れていない。完全に形勢は逆転。身体能力はアルクが上回っている。
「アルク神父、メチャクチャ強いッ!!
これなら勝てる!!」
激しくぶつかり合う内に初めてアルクの攻撃が擦った。
危険を感じ逃げる吸血鬼。しかしアルクは背後から左脚に噛みつき、そのまま膝から下を噛み千切る。
間髪入れず今度は心臓部を爪で一突き。右腕ごと貫通させる。
スプラッターなシーンに青褪めるスピカ。
でもそれは決して過剰ではない事をすぐに分からされる。
「フフフ……
そういう激しいところは変わってないわね……」
無残な姿に成り果てながら吸血鬼は余裕の笑みを見せる。
叫び声ひとつ上げずに、ゆっくり自身の胸を貫く腕を両手で掴むと……
[ボキッ!!!]
離れて見ていたスピカでも聞こえる程はっきりと骨が折れる音がした。アルクは悲痛の声を上げながら腕を引き抜く。
すると吸血鬼の胸に空いた大きな穴がみるみる塞がっていく。それどころか噛み切られ転がっていた脚も一人でに戻って行き、元通りにくっ付いてしまう。
「噛み付いた時に飲んだ私の血、返してくれる?」
吸血鬼が手をかざすとアルクが悶え出す。
身体が不自然にデコボコとうねり、噴水の如く全身から血が噴き出した。
その噴き出した血の幾らかは吸血鬼の元へと集まり、吸い込まれる様にかざした手に溶け込んでいった。
身体の内側からズタズタにされたアルクは力尽き、うつ伏せに倒れ込む。身体が萎んで元の姿に戻ってしまう。
しかし意識はまだあった。血反吐を吐きながら言葉を絞り出す。
「どうすれば許してくれる……」
これを聴いた吸血鬼は倒れたアルクの頭を思い切り踏み付ける。
「知らないわよ、バーーカッ!!」
そう吐き捨てた後、スピカの目の前に瞬間移動してくる。
ニコニコと微笑みながらスピカに聞こえるように呟く。
「さてと!
ゴミも片付いたし、運動後の一杯といきましょ!」
あの強さ、あの特異能力を持ちながら不死身。噂以上の悪魔の力を見せつけられた後では逃げようという気すら起きない。
もうどうにでもなれ。完全に諦めた時、スピカと吸血鬼の間に1人の小さな影が割り込んだ。
「ビ、ビエラ様!?」