11節
文字数 1,941文字
クソッ!静かにしろッ!!」
奇怪な音にビビったキタルファが拳をビエラに振り下ろす。しかしその時、ビエラからカメラのフラッシュの様な閃光が放たれた。
その光を直視してしまったキタルファは驚き、ビエラを手放して後退る。
視界が白飛びして何も見えない。思わず目を擦ろうとしたキタルファは、ある違和感に気付く。
左手の感覚が無い。ビエラを殴ろうとして拳を握っていた左手が。
薄目を開けて僅かな視界で左手を確認した時、彼は悲鳴を上げた。
「ヒ、ヒイあああァァッ!!?」
手首から先。ある筈の左手が消えていた。
痛みよりも噴き出す血でパニックを起こすキタルファ。そんな奴の元に向かってスピカは全速力で駆け出した!
走りながら右手で首から下げていたアミュレットを握り締め、紐を引き千切ると同時に拳を振り上げる。
その手に雷光の様な火花が迸るッ!!
「子供に手ェ上げてんじゃ……ねぇェェッッ!!!」
「ブへぇッ!!?」
勢いに乗せて放たれた右ストレート!!
誰もが殴りたくても殴れなかった顔面に、一切の容赦無く鉄拳を叩き込まれた!!
盛大に吹っ飛ぶキタルファ。
白目を剥いて昏倒したその姿は、今回の騒動の決着を意味していた。
……と言いたいところだが、ビエラが泣き出してしまった以上そうはいかない。
「すぐ来るわッ!
2人で何とか受け止められる!?」
「やってみましょう!」
「でも止められる保証なんてできないからな!」
「どうした、スピカ?
敵はもう全員倒したんじゃ……」
「こっち来ないでッ!
死にたくなかったら、そこから動かないッ!!」
「は、ハイッ!!
……??」
一体何が起きるというのか?
目を丸くするリゲル達の目の前で、それは突如として天井を突き破って現れた。
白い炎を纏ったボーリング玉サイズの塊。
それが気絶したキタルファに向かって垂直に、落雷の如き勢いで落ちる。
彼を跡形も無く消し去る。そんな明確な意思を持っているかの様に。
それを阻止せんとアルクとアークが立ちはだかる!
2人で両手を突き出し飛来物を受け止める。
着弾の衝撃で周囲のガラスが一斉に割れ、床に亀裂が入る。
だが勢いは止まらない!アークの張るシールドはみるみる削れ、アルクの腕は限界を超え痙攣を始める!
「この威力……思ってた以上だ……ッッ!!」
「ググぅ……ッ!!
もう……持た……な……ィッ!!」
2人の限界が近い。このままでは押し潰される!
それを察したスピカは叫んだ。
「ビエラ様ッ!!
いつまでも泣かないッ!!」
「(´;д;`) ヒック…!」
「あなたにしかできないことがあるッ!
泣いてたらそれが見えないでしょッ!!」
「…………
(つд⊂) ゴシゴシ………( • ̀ω•́ ) キリッ!」
蹲って泣いていたビエラが立ち上がった。
そして、今にも押し潰されそうな2人の真後ろに立つ。
「まさか!?
アレを受け止める気か!?」
車や銃弾をものともしなかった、あの2人でも受け止め切れていないのだ。子供にどうこうできる訳がない!
だがスピカは迷わずアルクとアークに逃げろと指示。2人は言われた通りその場から離脱する。
飛来物が背後に立っていたビエラへとその矛先を変えた!
直後、ビエラから再び眩い閃光が放たれた。キタルファに殴られそうになった時と同じ現象だ。
その一瞬にも満たない刹那。文字通り瞬く間に、猛烈な勢いで迫っていた飛来物は跡形も無く消え去った。撒き散らしていた熱気や暴風と共に。
嘘の様に静寂が戻ったホテルで、ドゥーべが思わず漏らす。
「何が起きたんだ……
まさか全部幻だった、なんてことは……」
「それはないだろ……
こんな跡が残ってるんだから……」
リゲルが見上げる先には、24層の天井全てを貫通した巨大な穴が空いていた。
穴の先では夕焼けの空が顔を覗かせている。
呆然とする2人の元にスピカが近付く。
「み〜た〜な〜……!!」
「え……?」
「ビエラ様の秘密を知った者は、ただでは帰さない……!!」
黒幕の様な事を言いながら迫るスピカ。
ギロリと2人を見下ろし、不敵な笑みを浮かべる。
「取り敢えず見ぐるみ全部脱がせて、抱き合ってる写真でも取りましょうか。」
「え゛?」
「私知り合いに新聞社の記者がいるの。
その人に写真売られたくなかったら、さっき見た事は誰にも言わない事ね。」
「待て待てッ!!そんな脅ししなくても言わないから!
いや……ちょっ……
アァァーーーッッ!!」
2人の弱みを握る為、凶行に及ぶスピカ。
その最中にコッソリとその場を離れる影があった事を、この時は誰も気付かなかった。
(オモロいもん見せてもろたわ。
つまらん街やと思とったが……
案外楽しめそうやな!)