9節

文字数 1,447文字

 期待通りポルックスとビエラはスピカの問題を漏らさず全部正解した。それだけではなくアンタレスの出す難問にも辛うじて喰らい付き、数問正解してみせた。

 しかし、相手チームの子供達も代表に選ばれるだけあって一筋縄では行かなかった。
 毎日教科書に穴が空くほど読み込んでいるのだろう。院長の問題には全て正解するのはもちろん、スピカのページ数指定の問題に対しても時より正解してきた。

 勝負は思いの外拮抗し、勝敗がつかないまま19問目。アンタレスからの最後の問題を終える。

「19問目、両チーム正解です!
 合計ポイントは共に13ポイントです!」

(ヨシッ!
 これで後は私からの最後の問題だけ。
 こっちが正解して相手が間違えれば勝ちよ!)

 勝利が目の前まで迫ったところで再び院長が待ったを掛ける。
 またイチャモンをつけて勝負を無かった事にするつもりだろうか?ここまで来てそれを了承する訳がないが。
 しかし、アンタレスが言い出したのは全然そういう内容ではなく……

「最後の問題に行く前に一呼吸入れましょう。
 お互い疲れていては頭が回らないでしょう?」

 そう言って持って来させたのはホットミルク。ハチミツが入っているのかほんのり甘い香りがする。
 おまけにリラックスしましょうとゆったりとしたリズムの音楽まで掛け始める。

(怪しい……、一体何を考えてるの?)

 一頻りゆっくりした後、いよいよ勝敗を決める最後の問題を公開する。

[Q.数学の教科書132ページにある問題の内、5問目の答えは?]

 問題を出された瞬間、学術区チームの子供達が頭を抱える。どうやら全く記憶にない様だ。

「やったぞ!これでオレらが正解すれば勝ちだ!
 頼んだぜ、ビエ子……ってビエ子ッ!?」

 ここで予想外の事態が起きる。ビエラが半目でうつらうつらと舟を漕ぎ始めたのだ。

 まさかさっきのミルクに睡眠薬が……!?
 いや、ミルクは相手も飲んだしカップは複数の中からビエラが自分で選んだ。なのに他の子には何の異常もない。ビエラだけに睡眠薬を仕込むのは無理だ。

「そうか!さっきのリラックスムードで眠気が一気に来たんだ!
 ビエラちゃんにとって昨日はかなりの夜更かしだったから……」
「おいッ!ビエ子!
 この問題を書いてから寝てくれ!帰りにお菓子買ってやるから!」

 まさかさっきの時間稼ぎにこんな意図が……!?
 どうやら問題を覚えているのはビエラだけだと気付かれた様だ。

 目を擦りながら何とか問題を書こうと奮闘するビエラ。しかしペン先には力が入っておらず、フラフラと千鳥足の様に線が揺れる。
 そして健闘虚しく……

「( ˘ω˘ )zzz…」
「ね、寝たーーーーッ!?」

(よく頑張りました、ビエラ様。
 ゆっくり休んで下さい……)

 とは言うものの、問題が分からなくなった状態では答えを出せる筈もなく……

「両チーム不正解!
 最終ポイントは13対13のドローです!!」

 やられた。最後の最後で足元をすくわれた。
 これでは結局来年には基本無料と言う名の、貧しい子供達を無下に扱う差別授業が始まってしまう。
 星教発祥のこの国でそんな非道を認めるなんて……

「このまま引き分けではつまらないでしょう!」

 突如観客の中から聞こえた声。声の主は人混みを掻き分け一歩前に出て来る。
 なんとその人物は……

「アルタイル君!?」



 アンタレスが男性の名前を叫ぶ。突如現れた学術院一の有名人にザワザワと騒がしくなる中、アルタイルはある提案を示した。

「僕からも1問出題させて下さい。
 それで勝敗をつけましょう。」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

名前:スピカ=ウィルゴ

性別:女

年齢:27

身長:162センチ

この物語の主人公。

基本は優しい心の持ち主だが平和主義者というわけではなく、必要とあれば荒事も辞さない。

有り過ぎる行動力と小賢しい悪知恵が働く以外はごくごく普通の一般人。

名前:ビエラ

性別:女

年齢:?(見た目は7歳くらい)

身長:117センチ

準主人公。

何故か一切声を出すことが出来ない。その代わりなのか感情に合わせて動きを変える、アホ毛の様なもの(触覚?)が頭頂部から生えている。

性格は奔放で好奇心旺盛。なのにビビり。

名前:アクルックス=クルス

性別:男

年齢:30

身長:188センチ

第2章のキーパーソン。

大柄で逞しい体躯を持ち、素行には大人の落ち着きがある。愛娘が一人いて、名前は”ミモザ”。

彼と知り合ったことをきっかけに、スピカ達はとある猟奇事件に巻き込まれる。(2章へ続く)

名前:アークトゥルス=ボーティス

性別:女

年齢:18歳

身長:155センチ

第3章のキーパーソン。

やや素直さに欠けるが根は真面目で勤勉。このお話では貴重な十代女子。

農夫達からの依頼で農作物を荒らす魔女の解決に乗り出したスピカ。その正体がなんと彼女だった。(3章へ続く)

名前:アルタイル=アクィラ

性別:男

年齢:51歳

身長:175センチ

第4章のキーパーソン。

宇宙や世界の真理を探究する高明な学者。『三賢人』と呼ばれる3人の天才の一人。

彼がビエラに関する情報を持っていると聞いたスピカは、彼の働く学術院を訪れるが…(4章へ続く)

名前:カノープス=カリーナ

性別:女

年齢:28歳

身長:161センチ

第5章~第6章のキーパーソン。

おっぱい担当兼、物語の核心に絡む角の生えた美女。しっかり者だが若干天然が入っている。

ビエラと関係があるかもしれない謎の飛来物の調査に来たスピカ一行。そこで偶然彼女と出くわす。(5章へ続く)

名前:リゲル=オリオン

性別:男

年齢:28歳

身長:176センチ

第7章のキーパーソン。

女と見紛うレベルの超美形。それでいて中身も聖人君子の出木杉君タイプ。

仕事でとある人物の護衛の任についていた彼は、その過程で思いがけず"裏の人間"と邂逅する。(7章へ続く)

名前:デネブ=シグナス

性別:男

年齢:50歳

身長:168センチ

第8章のキーパーソン。

数々の名品を生み出してきた機工技師。アルタイルと並ぶ『三賢人』の一人。

彼、強いては彼が代表を務める工房の力が必要になったスピカ。しかしその工房はある男に乗っ取られていた。(8章へ続く)

名前:花圃の魔女(本名不明)

性別:女

年齢:23歳

身長:159センチ

第9章のキーパーソン。

アークトゥルスの元仲間。手下を従えて群れるのが好きなお局気質の女性。

平和に暮らしていたアークの元に突然現れた彼女は、魔女である者は決して逃れられない"悲運"を告げる。(9章へ続く)

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み