8節

文字数 1,498文字

 青々とした庭。澄み切った風を受ける風車。流れる雲を水面に移す池。そして石造りの城。
 まるでここだけ数世紀前から時が止まっているかの様な風景。すぐ近くに目まぐるしく変化し続ける街があるとは思えない。

 馬車が城の門前に止まるとカノーはスピカを軽々と背負い馬車を降りる。観念したアークもビエラを抱えて後に続く。
 明らかに一人で開く物ではない巨大な門を、カノーはスピカをおぶったまま片手で悠々と開ける。門の先には舞踏会でも開けそうな大広間に繋がっていた。

 その絢爛さに圧倒されつつ誘導されるまま城の中を進んで行く。3階へ上がり、とある部屋の前でカノーが足を止める。

「こちらです。この部屋で休ませて下さい。」

 勧められた部屋でスピカとビエラをベッドに寝かせる。その後カノーはもてなしの準備をすると言って部屋を出て行った。

(ふぅ……やっと離れてくれた……
 いつ人間とバレるか気が気じゃないな……)

 ベランダに出て改めて周りを確認する。
 島の周辺は濃い霧で覆われていて遠くは見渡せない。だが上空だけは霧がないので空は綺麗に見えた。
 少し暗くなっている。もうすぐ日が暮れる。

「う…うん……」

(お?スピカが気が付いた。
 思ったより早かったな。)

 スピカとシンクロする様にビエラも目を覚ます。
 ここはどこ?と当然のリアクションをするスピカと半分寝ぼけているビエラ。

 大穴の見張りに襲われた事は言わない方がいいだろう。カノーが悪魔だと分かると態度に変化が出て怪しまれる可能性がある。
 そう考え、スピカ達にも勘違いを続けて貰う事にした。

 アークは休憩している間に2人共寝てしまい、その後カノーの善意でここに招待されたと説明した。
 2人は状況を理解すると起き上がり、豪華な部屋の中を興味津々で散策し始める。ベランダに出ると島の風光明媚な景観と城のデカさに目を丸くした。

 丁度その時だった。部屋のドアが静かに開かれる。

「あら?お二人とも目を覚ましたのですね。」

「カノーか。お陰様……デッ!?」

 アークは入って来たカノーを思わず二度見してしまった。
 ずっと被っていたフードを脱ぎ去っており、露わになった頭に大きな角が2本も生えていたからだ。

 カノーに気付いたスピカとビエラがベランダから部屋の中へ戻って来ようとしている。
 このままでは2人がカノーは悪魔だと気付く!驚く反応を見せるはマズイッ!!

 アークは咄嗟に2人に向かって、角が見えなくなる幻術を掛けた。

「あ、カノーさん!
 経緯はアークから聴きました。こんな素敵な場所に招待して下さってありがとうございます!」
「いえ、これぐらい当然ですわ。」

 ギリギリ間に合った。これで2人にカノーの角は見えない。
 筈だったのだが……

「Σ(゚口゚;)!?」

「うん?
 私の顔がどうかしましたか、ビエラちゃん?」

 カノーの頭の角を凝視するビエラ。
 そう!ビエラに幻術は効かないのだ!!

「うわぁーーーーッ!
 ちょっと来いビエラ様!!」

 アークは慌ててビエラの腕を引っ張り、無理矢理部屋の隅に連れ出す。そしてヒソヒソと耳打ちする。

「知らないかもしれないが、この世には突然変異で角が生えてる人間がいるんだ。
 でも角をイジる事は失礼にあたるから無いものとして振る舞え。いいな?」
「(*'-')b OK!」

 ビエラは素直なのでこれをアッサリ信じた。取り敢えずこれで当面の危険は去った。
 ……とは残念ながら行かなかった。

 再びドアが開かれ、更なる危険がアークを襲う。

「カノーお姉ちゃん、頼まれてたお風呂の準備できたよぉ〜」

(なんかもう1人来たーーッ!!?
 ちょっと休ませてくれェ……)
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登場人物紹介

名前:スピカ=ウィルゴ

性別:女

年齢:27

身長:162センチ

この物語の主人公。

基本は優しい心の持ち主だが平和主義者というわけではなく、必要とあれば荒事も辞さない。

有り過ぎる行動力と小賢しい悪知恵が働く以外はごくごく普通の一般人。

名前:ビエラ

性別:女

年齢:?(見た目は7歳くらい)

身長:117センチ

準主人公。

何故か一切声を出すことが出来ない。その代わりなのか感情に合わせて動きを変える、アホ毛の様なもの(触覚?)が頭頂部から生えている。

性格は奔放で好奇心旺盛。なのにビビり。

名前:アクルックス=クルス

性別:男

年齢:30

身長:188センチ

第2章のキーパーソン。

大柄で逞しい体躯を持ち、素行には大人の落ち着きがある。愛娘が一人いて、名前は”ミモザ”。

彼と知り合ったことをきっかけに、スピカ達はとある猟奇事件に巻き込まれる。(2章へ続く)

名前:アークトゥルス=ボーティス

性別:女

年齢:18歳

身長:155センチ

第3章のキーパーソン。

やや素直さに欠けるが根は真面目で勤勉。このお話では貴重な十代女子。

農夫達からの依頼で農作物を荒らす魔女の解決に乗り出したスピカ。その正体がなんと彼女だった。(3章へ続く)

名前:アルタイル=アクィラ

性別:男

年齢:51歳

身長:175センチ

第4章のキーパーソン。

宇宙や世界の真理を探究する高明な学者。『三賢人』と呼ばれる3人の天才の一人。

彼がビエラに関する情報を持っていると聞いたスピカは、彼の働く学術院を訪れるが…(4章へ続く)

名前:カノープス=カリーナ

性別:女

年齢:28歳

身長:161センチ

第5章~第6章のキーパーソン。

おっぱい担当兼、物語の核心に絡む角の生えた美女。しっかり者だが若干天然が入っている。

ビエラと関係があるかもしれない謎の飛来物の調査に来たスピカ一行。そこで偶然彼女と出くわす。(5章へ続く)

名前:リゲル=オリオン

性別:男

年齢:28歳

身長:176センチ

第7章のキーパーソン。

女と見紛うレベルの超美形。それでいて中身も聖人君子の出木杉君タイプ。

仕事でとある人物の護衛の任についていた彼は、その過程で思いがけず"裏の人間"と邂逅する。(7章へ続く)

名前:デネブ=シグナス

性別:男

年齢:50歳

身長:168センチ

第8章のキーパーソン。

数々の名品を生み出してきた機工技師。アルタイルと並ぶ『三賢人』の一人。

彼、強いては彼が代表を務める工房の力が必要になったスピカ。しかしその工房はある男に乗っ取られていた。(8章へ続く)

名前:花圃の魔女(本名不明)

性別:女

年齢:23歳

身長:159センチ

第9章のキーパーソン。

アークトゥルスの元仲間。手下を従えて群れるのが好きなお局気質の女性。

平和に暮らしていたアークの元に突然現れた彼女は、魔女である者は決して逃れられない"悲運"を告げる。(9章へ続く)

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