17節

文字数 1,753文字

 葬儀が終わり自身の館へと帰って来たアーク。
 大きな問題が解決した筈なのに、疲れ切っているせいかその表情は固い。

 玄関のドアノブに手を掛けた時、何故か一瞬の躊躇を見せた。
 その後、ゆっくりと玄関の扉を開く。

「お帰りなさいませ、アークトゥルス様。
 葬儀は無事お済みになりましたか?」
「ああ。」

「随分とお疲れのご様子。
 すぐに汗を流されますか?」
「いや、後でいい。
 それより紅茶を淹れて、部屋に持って来てくれ。」

 指示された通り紅茶を淹れ、お茶菓子と一緒にアークの部屋へ持って来るネカル。
 部屋に入ると、そこではアークが再びサイコメトリーを試みようとしていた。

 今回記憶を読もうとしている物はハマルの麦わら帽子。
 転星の儀が終わった後、貰い受ける事にしたのだ。

 この帽子は彼女のお気に入りで、外へ出る時はいつも身に付けていた。もちろん亡くなったその日も。
 つまり、この帽子の記憶を読み取れば分かるはずだ。ハマルが亡くなった時のことが。

「ネカル、お前も一緒に見ていけ。」
「……かしこまりました。」

 映し出されたのは森の中だった。
 殆ど草に隠れてしまった古い道を、ハマルが息を切らしながら進んでいる。

 アークはこの道を知っていた。農園区と館がある廃村を繋ぐ唯一の道だ。
 使われなくなって久しく、若い人でも片道30分以上掛かる劣悪で長い道。老体のハマルにはキツ過ぎる。

 案の定途中で足が止まり、崩れる様に座り込むハマル。
 だが休憩しても息が整わない。それどころかドンドン呼吸が荒くなっていく。

 これは……発作を起こしている。
 無理な運動で心臓に負荷が掛かり過ぎたのだろう。
 だがこんな森の中で助けに来る者など……

 そう思いきや、蹲る彼女の前方から1人の男が現れた。
 細身の長身で綺麗に着こなしたタキシード姿。月明かりが照らし出したその頭は……カボチャだった。
 こんな容姿をしているのは世界中でネカルただ1人だ。

 ハマルを抱き抱えるネカル。
 すると彼女が何か言い始めた。助けを求めているのだろうか?
 しかしネカルはそこから一歩も動かない。運ぼうとも助けを呼びに行こうともしない。

 次第にハマルの息が小さく、短くなって行く。
 そして遂に……

「くっ……!!」

 映像が乱れた。
 耐えられなかったのだ。あまりに辛い映像に、アーク心が。
 これ以上は見れないと諦めたアークはサイコメトリーを中断し、目を合わせないままネカルに問う。

「この後亡くなった婆さんを農園区へ運んだ。
 ……それで間違いないか?」
「はい。相違ございません。
 放置しては、あそこに誘い込んだ者がいるとバレてしまいかねませんので。」

「どういう意味だ?」
「あの夜、ハマル様にこうお伝えしました。

 “もうアークトゥルス様が農園区に来ることはありません。
 これ以上農園区の皆様を不幸にしないために、御本人がそう決心されました。
 今宵の内にこの国を出るおつもりです。”

 こう伝えればご自身の体調を顧みず廃村へ向かうだろうと。」

 ネカルの画策通り、話を聞いてすぐハマルは慌てて家を出た。アークを引き止める為に。
 その結果が今見た通りだ。

 そう。ハマルの死は決して不運などではない。
 ネカルが意図して招いた事故。
 いや、最早これは殺人と言ってもいい。

 声を震わせながら、アークは三度問う。

「婆さんは最期、なんて言ってた……」
「『助けて』と何度も縋るように。
 丁重にお断りしましたら、糸が切れた様に……」

 全て言い終えるのを待つ事など到底できなかった。
 人形達が一斉に飛び掛かり、ネカルを床に押さえ付ける。

 アークはカボチャ頭にクワの先端を突き付け一括する。

「何故だ!何故ハマル婆さんに手を出した!!
 今までワシ以外に危害を加える事はしなかっただろッ!!」
「アークトゥルス様に精神的負荷を与える最も効果的な手段と判断したまでの事。
 必要とあらば、他の方を手に掛ける事に躊躇はございません。」

「ワシへの嫌がらせなら幾らでも、何をしても見逃してやる。
 だが、関係無い奴を巻き込むなら許す訳にはいかないッ!!」
「左様でございますか。
 では、何なりと罰をお与え下さい。」

 アークはクワを頭上高く振り上げる。
 これを振り下ろせば今度こそ全て解決する。
 このカボチャ頭を砕き割りさえすれば!
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登場人物紹介

名前:スピカ=ウィルゴ

性別:女

年齢:27

身長:162センチ

この物語の主人公。

基本は優しい心の持ち主だが平和主義者というわけではなく、必要とあれば荒事も辞さない。

有り過ぎる行動力と小賢しい悪知恵が働く以外はごくごく普通の一般人。

名前:ビエラ

性別:女

年齢:?(見た目は7歳くらい)

身長:117センチ

準主人公。

何故か一切声を出すことが出来ない。その代わりなのか感情に合わせて動きを変える、アホ毛の様なもの(触覚?)が頭頂部から生えている。

性格は奔放で好奇心旺盛。なのにビビり。

名前:アクルックス=クルス

性別:男

年齢:30

身長:188センチ

第2章のキーパーソン。

大柄で逞しい体躯を持ち、素行には大人の落ち着きがある。愛娘が一人いて、名前は”ミモザ”。

彼と知り合ったことをきっかけに、スピカ達はとある猟奇事件に巻き込まれる。(2章へ続く)

名前:アークトゥルス=ボーティス

性別:女

年齢:18歳

身長:155センチ

第3章のキーパーソン。

やや素直さに欠けるが根は真面目で勤勉。このお話では貴重な十代女子。

農夫達からの依頼で農作物を荒らす魔女の解決に乗り出したスピカ。その正体がなんと彼女だった。(3章へ続く)

名前:アルタイル=アクィラ

性別:男

年齢:51歳

身長:175センチ

第4章のキーパーソン。

宇宙や世界の真理を探究する高明な学者。『三賢人』と呼ばれる3人の天才の一人。

彼がビエラに関する情報を持っていると聞いたスピカは、彼の働く学術院を訪れるが…(4章へ続く)

名前:カノープス=カリーナ

性別:女

年齢:28歳

身長:161センチ

第5章~第6章のキーパーソン。

おっぱい担当兼、物語の核心に絡む角の生えた美女。しっかり者だが若干天然が入っている。

ビエラと関係があるかもしれない謎の飛来物の調査に来たスピカ一行。そこで偶然彼女と出くわす。(5章へ続く)

名前:リゲル=オリオン

性別:男

年齢:28歳

身長:176センチ

第7章のキーパーソン。

女と見紛うレベルの超美形。それでいて中身も聖人君子の出木杉君タイプ。

仕事でとある人物の護衛の任についていた彼は、その過程で思いがけず"裏の人間"と邂逅する。(7章へ続く)

名前:デネブ=シグナス

性別:男

年齢:50歳

身長:168センチ

第8章のキーパーソン。

数々の名品を生み出してきた機工技師。アルタイルと並ぶ『三賢人』の一人。

彼、強いては彼が代表を務める工房の力が必要になったスピカ。しかしその工房はある男に乗っ取られていた。(8章へ続く)

名前:花圃の魔女(本名不明)

性別:女

年齢:23歳

身長:159センチ

第9章のキーパーソン。

アークトゥルスの元仲間。手下を従えて群れるのが好きなお局気質の女性。

平和に暮らしていたアークの元に突然現れた彼女は、魔女である者は決して逃れられない"悲運"を告げる。(9章へ続く)

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