異聞(前編)
文字数 1,673文字
鳥のさえずりに混じってポストがカシャンッと音を立てる。この音がスピカの目覚まし代わりだ。
ソッと起き上がり横でまだグッスリのビエラの寝顔をボ〜っと眺める。少し目が覚めてきたのを見計らいベッドを離れ投函された新聞を取りに行く。
コーヒーを飲みながら一面記事に目を通し、その他は流し読みする。読み終わる頃には目も完全に覚める。
これがスピカのモーニングルーティンだ。
それが終わったら今度は朝食の準備。なのだが、特に下準備する訳でもなくいきなり鍋に火を掛ける。どうやら昨日の残りをそのまま朝飯とするようだ。
温まるのを待つ間スピカはふと独り言をこぼす。
「アルタイル教授からの連絡まだかなぁ〜」
宇宙船計画に協力すると決まってから1週間。デネブとベガに面会する予定が組めたら連絡する、と聴いてはいるが全く音沙汰が無い。
アルタイルも含め全員忙しい身なので、早々都合良くスケジュールが噛み合わないのだろう。
焦ったところで特にできる事はない。仕方ないので今の内に、いつも通りの日常を満喫しておこう。
そんな事を思っていたスピカだが、その平穏は呼び鈴の音によってあっさり掻き消される。
「誰だろ?こんな朝早く。」
まだどこのお店も開いていない様な早朝。そんな時間に人が訪ねて来るなんて珍しい。
もしかしてアルタイルからの緊急連絡か?そんな事を思いながら不用意にも覗き窓から来客の顔を確認せずにドアを開けてしまう。
玄関先に居たのは微塵も予想していなかった人物だった。
「お久しぶりですね、スピカ司祭。」
「…………
人違いです。それじゃ!」
顔を見るなりスピカは慌てて扉を閉じようとする。しかし来客はその行動を読んでいたのか、素早く足を突っ込みそれを阻止する。
「面白い冗談ですが長距離の移動で少々疲れているのです。
これ以上悪ふざけはご遠慮頂けるかな?」
「クッ……!
……どうぞお上り下さい、レグルス主教……」
—宿舎1階、食堂——
「ふむ……」
品定めする様にメガネをクイッと上げてスピカの出したスープをじっくり眺めるレグルス。スプーンでひとすくいし匂いを確かめた後ゆっくり口に含む。
口の中でスープを転がし、食材ひとつひとつを噛み締めていく。ジッと反応を待っていたスピカだが、さすがにムズ痒くなり感想を求める。
「あの……どうでしょうか?」
「美味しいですね。
食材によくスープが染み込んでいて料理全体に一体感があります。」
(やった!こだわってじっくり煮込んだと思い込んでる!
昨日の残り物だって事は黙っとこ。)
「残り物を客人に出す精神は問題ありですが。」
(バレとるやないか……)
まるで心の中を読めているかのように振る舞うレグルス。これにはスピカもタジタジと言った様子。
しかし毛嫌いしているという感じではなく、いつも通りの事として受け入れている。
何でもお見通しである事を鬱陶しく思いながらも、理解してくれることを嬉しくも思う。そんな親と子のやり取りを見ているようだ。
「それで何のご用ですか?
事前の連絡もなく来るって事は急ぎの用ですか?」
「いえ、単なるチェックです。」
「チェック?料理のですか?」
「そんな訳ないでしょう。
あなたが司祭として問題なく務めを果たせているかのチェックです。」
星教会では毎年主教の誰かがいずれかの司祭の元に赴き、しっかり活動できているか確認する取り組みをしている。
今年のチェック担当はレグルスでチェック対象はスピカに決まったとのこと。
「今日は私の荷物がここに届くので、それを空き部屋に運び込むだけです。
チェックは明日以降に行います。」
「明日以降って……
もしかして1日で終わらない感じですか?」
「無論です。
私が問題ないと判断するまでは、ずっと住み込みであなたの活動を評価させてもらいます。」
「えぇッ!?」
「もし能力不十分と判断したら司祭の職位を剥奪しますから心して職務に励む様に。」
〈エエェェェーーーッッ!!!?〉
「Σ(oдΟ;) ナニゴト!?」