6節
文字数 2,025文字
2人でコソコソ話し合った後、魔女はスピカにここで寝てろとだけ言って何処かに行ってしまった。
そうは言われても座ったままで熟睡出来るはずもない。お尻も痛いしでモゾモゾしていると、下の方からバンッと大きな音が鳴る。
すると大勢の足音がどんどん屋敷に入ってきて、あちらこちらから部屋を掻き回す音が聴こえる。
「まさか強盗!?
魔女は何やってるの!?」
その足音は徐々にスピカがいる部屋に近付いて来る。
本当に強盗だとしたら今の状況は相当にマズイ。魔女から貸して貰ったナイフで急いで足を縛っている縄を切ろうとする。
だが果物ナイフではそんな簡単に切れない。モタモタしている間に遂に部屋のドアが開かれる。
「司祭のお嬢ちゃん!無事か!?」
ドアを開けたのは昼間に森の前まで案内してくれた農夫だった。その農夫に拘束を解いて貰い、ようやくお尻の痛みから解放される。
「どうしてここに?」
「一緒に連れて行った女の子が居るだろ?
あの子だけ帰って来て、何があったか訊くとあんたが捕まったって教えてくれてね。
自分達の為に行ってくれたのに見過ごせないって、みんなで助けに来たんだ。」
「そうか、ビエラ様が……!
農夫さん達も危険を顧みず助けに来てくれて、ありがとうございます!」
スピカを見つけたと聴いて他の農夫も続々と集まって来る。
他の部屋の様子を報告し合うが、特に誰も居なかったらしい。どうやら魔女は留守のようだ。
居ないのなら好都合。このまま逃げよう。
皆で一斉に外に出た時、期待も虚しくあの魔女が現れる。
「貴様ら、よくもワシの屋敷を荒らしてくれたな。」
声のした方を向くと杖を片手に宙に浮く魔女の姿があった。
ラフな格好から一転して黒いローブに三角帽子という如何にも魔女という装いで、スピカと会話していた時とは別人の様に鋭い眼つきで見下ろしていた。
「で、出たぁぁぁ!!」「うわぁぁぁーーー!!」「やれーーーッ!!」
「待って!彼女はそんな恐ろしい人じゃ……」
スピカの制止も届かず農夫達は一斉に手にしたクワやカマを投げ付ける。
しかしそれらは魔女に届く前に空中でピタリと静止する。するとクルリと180度方向を変える。
魔女がパチンと指を鳴らすと、凄まじい速度で農具が舞い戻る。それが農夫達の足元やすぐ横を掠め、あちらこちらで悲鳴が上がる。
(攻撃してきた!?
そんな子じゃないと思ったのに……!?)
力の違いを見せ付けられ全員魔女に背を向けて逃げ出す。
しかし、その行く手を遮る様に黒いマントに身を包んだカボチャ執事が空から舞い降りる。
マントを広げるとあのヒョロ長い身体は無く、真っ黒な虚空が口を開けていた。そこから鋏や鉈といった凶器を手にした人形達が次々と這い出して来る。
慌てて引き返すも今度は魔女の真下に魔法陣が描かれ、スピカを捕まえたあの巨大な岩人形が3体も同時に召喚される。
完全に挟み撃ちの状態となり、一箇所に固まるしかない。
「安心しろ。なるべく無傷で殺してやる。
肉はドールズの餌になる。
骨は呪具の材料になる。
心臓は使い魔召喚の贄になる。
魔女にとって人間は捨てる所のない素材の塊だからな。ヒッヒッヒッ……」
その恐ろしい言葉に、誰もが顔を青く染めた。
スピカが彼女から受けた印象は誤りだったのだろうか。
果物を分け与えてくれたのは単なる気まぐれ?
大好きな人形について語っていた時の少女の様な無垢な声は偽物?
嘘であって欲しい。
そう願うスピカを嘲笑う様に魔女の指がゆっくりとスピカ達に向けられる。
それを合図に人形達が一斉に武器を構える。
そして冷徹な命令が下される。
「殺れ。」
その時、一発の銃声が鳴り響いた。
直後、今まさに襲い掛からんとしていた人形やカボチャ執事達は動きを止め、その場に崩れ落ちた。
何が起きたのか?
その答えは魔女を見た瞬間に判明する。
「ウゥ……ッ!!」
苦しそうに声を漏らしながら左肩辺りを押える魔女。そこからは血が大量に噴き出していた。
すると急に力が抜けた様に体勢を崩し、そのまま地面に落下した。
誰もが呆然とする中、1人の男の声が響き渡った。
「殺ったぞ!俺が魔女を倒したッ!!
見たか!ハッハーーッ!!」
それはあの乱暴オヤジだった。
いつのまにか屋敷の2階のベランダに陣取り、猟銃を片手に大はしゃぎしている。
オヤジはベランダから飛び降りると、倒れた魔女の腕を掴みそのままあっさり拘束してしまった。
「勝った……??」
「た、助かったぞ!」
「ヤッターーッ!!」
絶望的状況から解放された農夫達が次々に歓喜の声を上げる。
そんな中、スピカだけは素直に喜んでいなかった。
(何この結末……
おかし過ぎない??)
元凶たる魔女は捕まった。本当にこれで事件は解決なのだろうか?
釈然としない気待ちのまま農園に戻った時、スピカは新たな問題に直面するのだった。