14節
文字数 2,060文字
互いに総力を尽くす戦いの中、花圃はある違和感を感じていた。
(おかしい……
何でコイツ魔力切れしないの……!?
大して魔力は残ってない筈なのに!!)
つい2日前。
3日間に及ぶ花圃達の監視によって、アークはまともに飛べない程魔力を使い切っていた。
あれから急いで魔力を補給したとしても、2日間でそういくつも願いを叶えられるとは思えない。
この夜、既にかなりの魔力を消耗している。
とっくにガス欠になって然るべきだ。
なのに何故攻撃の手が緩まない?何故まだ花圃と対等に渡り合える?
何かカラクリがあるのか?それともただのヤセ我慢で本当はジリ貧なのか?
戦いながらアークの底を探る花圃。
しかし、その答えを得る前に突然アークが攻撃の手を止めた。
「花圃、それがお前の全力か?」
「……は?」
「だとしたら思ってた程じゃ事ないんだな。
自慢の香さえ注意すれば、他は特に警戒する程の腕じゃない。
その香も、実際に受けていくつか対処法がわかったしな。」
「ハッ!何それ?
まさか挑発のつもり?
ガキ臭!(笑)」
「いや、もう十分だと思っただけだ。手の内を探るのは。
だから……そろそろ本気で行く!」
強キャラみたいな事を言い出したアーク。
花圃はそれを鼻で笑いつつも、大した事ないと言われてカチンと来た。
ならばビビらせてやろうと、荊の怪物達を1箇所に集め始めた。
怪物達は互いに絡み合い、ドンドン大きな塊となる。
5メートルもあるアークのゴーレムが小さく見える。直径10メートルはあるか。
その塊の中から巨大な蕾が顔を出し、薔薇のような大輪の花を咲かせた。
丸太の様に太い触手がムチのようにしなる。それが周りの木々を根本からバキバキと折っていく。
さっきまでと比べ物にならないパワーだ。
「私の最強の使い魔『荊の女王(ソーンクイーン)』よ。
ちなみにこの子の花からは私のお香と同じ効果の香りが出てるの。素敵でしょ?」
これには流石に勝てないだろう。勝ち誇った笑みを浮かべる花圃。
しかしアークが臆する様子は全く無い。
気に入らないと花圃が使い魔に攻撃を命じたその時、突如地面が揺れた。
眠っていた獣達が、鳥達が一斉に飛び起き、そのまま一目散に逃げて行く。
巨大な影が、森を覆い尽くす……!!
「う、うそでしょ……
なによ……アレ……ッ!?」
「こっちも紹介する。
ワシの新作、名前はそうだな……
烏除けをスケアクロウ(烏脅し)と呼ぶのなら、こいつは『スケアウィッチ(魔女脅し)』だ。」
立ち上がったそれは、山と見紛うばかりの大巨人だった
周りの大木が脛程度の高さしかない。全長はざっと50メートルはある。
木、蔓、石、稾など。農園区で手に入る素材をとにかく注ぎ込んだ、不恰好な人型人形。
それが一歩踏み出すだけで大地が揺れ、大気が脈打つ様に振動する。
「小難しい能力には小難しい制約が付き物だからな。
色々勉強した結果、シンプルに力が強いのが結局1番実戦向きだって結論になった。
だからデカくしようって発想は自分でも幼稚だと思ったが、お前の反応を見るに正解だったな。」
「こ、こんなの幻覚に決まってる……!!
無視してアークを攻撃よ、クイーン!!」
[グシャッッ……!!!]
「へ……?」
踏み下ろされた巨脚によって、荊の女王は敢えなく押花となる。
その死骸は目の前の存在が紛れも無く、現実に存在している物だと裏付けた。
スケアウィッチは今度は虫でも叩くように、花圃向かって手の平を叩き付ける。
それを何とか躱わす花圃だったが、生じた暴風までは避けられず、吹き飛ばされ地面に落着する。
落下の衝撃で腕が折れたか。痛みに震えながら片腕で身体を起こす花圃。
そこにアークが静かに迫る。
「この辺にはやたら強い奴が多いんだ。
隕石落としてくる奴が居ると思えば、その隕石を難なく受け止める奴もいる。
力なんて全く無いくせに、なんかいつも解決する理解不能な奴もだ。
少しでもそいつらと対等になるために力を付ける努力をしてきたが、ちゃんと成果は出てるみたいだ。
半年前は怖くて手も足も出せなかったお前が、今は随分小さく見える。」
スケアウィッチが拳を振り上げる。
その妖しく光る瞳は花圃を真っ直ぐに捉えている。
人形を背に立つアークは、恐怖で固まる花圃に冷徹な目を向けて囁く。
「お前のお陰で自信を持てた。これからもっと精進できそうだ。
礼を言わせてくれ。
噛ませ犬になってくれて、ありがとう。」
〈イ、イヤーーーーッッ!!?〉
轟音を上げながら巨拳が振り下ろされる。
迫り来る死に耐え切れず、花圃は目を塞ぐ事しかできなかった。
……しかし、覚悟した死はいつまでも訪れなかった。
恐る恐る目を開けた時、目の前には動きを止めた拳と、その前に立ちはだかる小さな背中があった。
「(•`O´•) ダメッ!」
「わかってるよ、ビエラ様。
これ以上はダメだよな……」
腰が抜けて身動き出来なくなった花圃を縛り上げ、アークとビエラは葬儀場に戻るのだった。