第一節 複雑な肉体 二

文字数 7,828文字

 牢屋の前に置かれた椅子に座り机に突っ伏して女は寝ている。朔が寝た後にすぐに彼女も寝た。
「彼の様子は」
医者が机の端を指先でコンコンとつつく。女は初めから起きていたかのようにすぐに頭部を上げ彼女を見る。
「そっちはどうなった」
「その前に彼の様子が知りたい」
「こんなことは言いたくないが気にするほどの傷じゃない。今まで一番早く傷が癒えるだろうからな」
「どうして」
女は肘をつき朔のいる牢屋に顔を向ける。そして隣にある椅子をコンコンとこつく。彼女は行商箪笥を地面にそっと置き椅子に座る。ただの鉄パイプだが九時間に及び逼迫した状況が続いた後の体には羽毛の上に座るが如く座り心地が良いものに思える。
「あの大柄の男が刀を差していただろ」
「そうなのか」
彼女も肘をつき正面にいる朔を見る。
「あれの近くにいると身体能力や自然治癒力が著しく向上する。まぁ、本人はまだ使いこなせてないようだがな」
「明日になったら傷は完治するのか」
「マシになるとしか言えんな」
「そう………………。」
「そっちはどうなった」
「峠を越えた。あとは時間が経てば良くなる」
「–––––––––––あいつは拷問を受けていたのか」
「違う」
「あのわざと皮膚と肉を少しずつ削った傷はなんだ。サディストでもいるのか」
「サディストか。あなたは人の世界に詳しそうだな」医者は親指をこめかめに付けさせ他の指の付け根を額につけて頭部を支える。疲弊した息を吐き出し瞳を閉じた。「雷神軍に参加する物の怪たちは人間に土地を追いやられたり同胞を殺されたりしたものたちが多くいる。当然、そういった背景がなく物の怪の……物の怪社会の風潮とでも言えばいいのか。そういったものに影響された物の怪たちも在籍している。そんな彼らが集まってはいるが今行われている戦闘のほとんどは小規模な衝突の繰り返しに留まっている。ここの陣営の様子を見ている限り大規模な戦闘の見通しはおそらくまだ経っていない。そんな状況下で彼らに残るのは当てようのない高揚感といつ滅ぶかもしれない焦燥感のみだけだ」
「そんな奴らの捌け口になっていたのか」女は肘付きを止めその腕を机に伏し睥睨する。「お前はそれを知って何もしなかったのか」
「私はあくまで…………」天井から自身の手に液体が落ちた。温度のないそれは純粋な水でしかない。しかし牢屋からは嗅ぎ慣れたにおいがする。「………そうだ。私は知っていながら無視していた」
「保身のためか」
「一つ目に全て投げ出していた。外部の人間が口を挟む問題ではないと」
医者は瞳を開け血が滲む朔の包帯を瞳に収める。無駄に巻かれた包帯が自身の軽薄さを際立たせる。
 並みの情を寄せることで自分は彼らと違うと思っていただけかもしれない。
彼女は椅子から離れ地面に置いた商業箪笥に近づき包帯とアルコールを取り出す。そして椅子を持ち牢屋に入り朔の隣に座る。包帯を解いていく度に凝固した血のにおいが鋭くなっていく。包帯を透かし見える傷の深さも徐々に鮮明になる。
「わからないな。言い訳もしないお前がどうして傍観者になれたか」
「私もわからない。あなたに言われるまで何も自覚していなかった」
アルコールで濡らした布で朔の体を丁寧に拭いてく彼女の背中を女が見る。女は腹立たしく思っているがもうそれを表面には出していない。やりきれない思いの中でふと女はあることを思い出す。それは奇しくも彼女も同様のことを思い出していた。
 第二次世界大戦後のナチのアウシュビッツ収容所の出来事だ。収容所のあまりにも悲惨な光景に言葉を失った連合軍はこの行為を決して忘れさせないために住人を呼んで見学させた。住人たちはまるでゴミのように粗雑に積まれた死体の山や皮膚が骨格を鮮明に浮かびあがらせる衰弱したユダヤ人たちを目撃する。住民は「自分達は何も知らなかった」とユダヤ人たちに釈明した。服もなく立つこともままならないユダヤ人たちは荒れた白い唇を動かし「いいえ、あなたたちは知っていた」と返した。
他人事であった時は知らないわけがないと彼女も思っていた。








 掛け布団がシーツと擦れる音が聞こえた。牢屋の中で鉄格子にもたれ椅子に座っていた私は立ち上がり瞳を呆然と上に向ける彼の元に寄る。
「あいつはどうなった」
「今朝には意識が戻っていた。おそらく瞳の横にある穴の治りが予想以上に早いのがよかったのだろう」
深海のような暗い地下の洞窟でわざわざ意識して見るものはない。互いの顔をよく見ようにも太陽が天高く昇る昼時の限られた時間しか光ははいってこない。体温を奪う石の冷たさと身を包み込む鬱蒼とした闇の中で彼はずっと一人だ。さらに自分を無意味に傷つける奴らがいた。そんな日々の中でも彼は一度も涙を流したことはなかった。
「そうか」
自分ではなく誰かが傷つくのがよほど嫌いらしい。
 「ここはどうも湿気が多くて好かんな。それに暗い。さらに寒いときた」人型の大柄の物の怪が牢屋の扉をしゃがみ通る。彼は腰に差した刀を取り出し彼女に持つように促す。「どうだ。ここでただ待つのは億劫であろう。我がお前を鍛えてやろう」
「許可しない」
彼女は刀に一切反応を示さず大男を見上げ強い意志を示す。威勢のいい眼差しに男は
「ほう、いい瞳だ」
と宝石でも愛でるように言った。
「おい、デカイの」
牢屋の外で足を組み机に肘をついている女が言った。彼は上体を捻り振り向く。そして刀から手を離した。不意に女が言っていた刀と彼との関係を思い出した彼女は慌てて手を伸ばして地面に落ちる直前で刀をとった。
「何ようだ」
「ここでは捕虜に関する扱いにルールはないのか」
「我が思う統治こそがここでのルールだ。故に背いたあやつらには除隊か罰を受けて留まるか我を殺し統治者になる三つもの選択肢がある」
「もっと端的に言ってくれないか」
「全てのものは生まれながら自由だ。故に–––––––」
「そうじゃなくてそいつらの処分はどうなった」
「ふむ、つれないやつだな」男は腕を組みもみあげ近くの髭を親指で触る。「奴らは除隊を選んだ」
女は銀髪を片手で掻き上げ前頭部を強く握る。机の上に置かれた片手の人差し指は爪先が白くなるほど力が入っている。木製の甲板が軋み鉄製の脚が凹んだ。
「それでいいのか。朔」
「赦すつもりはない」朔は彼女が両手で重そうに持つ刀の柄を握る。綿を指先で掴み上げるように容易く彼女の手元から離し刀を少し下にずらして鯉口付近を掴む。そして上体を上げ掛け布団から足を出しベッドの縁に座る。「だけど、今はそれより気掛かりなことがある」朔は大柄の男を見上げる。「コクライ、何もしない時間に堪えられない。だから焼き芋を食べた時に提案した訓練の誘いに乗りたい」
「小童、奴らに復讐できるのは今だけだぞ。逃して仕舞えばいつ会えるかわからなくなる」
「今は……」朔は鍔を強く鞘に抑えつける。「少なくても今だけはそれだけのために刀は抜きたくない」
「正義はいかなる時においても介在しない。なればこそ力を振るいたい時に振るえばいいのだ。それに奴らは雷神軍に属する世界の敵ときた。誰も咎めはせぬぞ」
彼は朔の闘争心を煽るようにからかうように言った。男の口角は微笑んでいる。同時に冴えた瞳が朔を穿ち見ている。
「いい。もうそう決めた」
「そうか」
黒雷が朔に近づき岩石を思わせる屈強な腕で朔の体を抱きよせる。
「不用意に––––––––」
青藍の風が四方から体にぶつかりすり抜ける。突然の突風に朔の目が閉じる。暖かみがある爽やかな風が体に停滞していた暗い湿気を一瞬にして全て吹き飛ばし体に新たなる体感を浸透させる。
「見よ。自分の意志で歩き始めたものよ。いかなる思想にも侵されぬこの世界を」
強風が全ての音を遮断する中で大樹の喉元から出たような泰然とした声が聡明に聞こえる。その声に導かれ瞳が開く。晴天と錦繍の山が終わりなく果てなく広がっている。その景色は一条に輝く陽光が常に瞳を掠めるためあまりにも明るくあまりにも眩い。星の光芒のようなその輝きは体に浸透していき胸底を熱くさせる。朔にとってそれは述懐し難い懐古を覚えさせる。
「懐かしいような気がする」
かつて塔子と見た星の軌跡が世界の可能性に陶酔した高揚感が内側から再び胎動する。
「ふはははははは。良いだろう」
高らかに笑うコクライにつられ朔は顔を綻ばせる。彼らは同じ輝きを瞳に宿し同じ光景に感銘を受ける。そして同じように笑う。

 「信じられない。天井を砕いて一気に空に飛び上がるなんて」
「おまけにあいつの笑い声もここまで響いているぞ」
二人は牢獄がある洞窟で光の柱が立つ天井を見上げている。天井から一枚の赤い葉っぱがゆらゆらと落ちてくる。彼女はそれを掴み光にかざす。虫食いで多くの穴がある赤い葉から雫のような光が落ちている。欠けているはずそれはまるで初めからそうだったかのように光が埋め合わせることによって不恰好にも完成している。
「たった一晩で外は紅くなったのか」
「お前の名前は」
彼女は葉を一条の光にかざしている手を下げる。そして女を見る。白銀の髪は月気のような静観な趣深い輝きがある。鬼の最たる象徴である角は空を見上げる女の瞳のおかげで恐ろしさよりも熟練の彫り師が創造したような美しさを感じさせる。
「私のことが憎くないのか」
「私が当事者ではないからな。それに思うところもある」女は彼女の瞳を見て手を伸ばす。「空喰だ」
夕暮れが紅色の樹冠を透過したような瞳の色だ。一年の中でそう見ることのない刹那の色は女の心に根ざすものが見せている気がする。
「カスペキラ」
握手した空喰の手に何故かカスペキラの手は傷だらけの手に触れた幻影にさらされる。
「久しい語音だ。東北のものか」
「随分永く生きているようだな」
「カスペキラもそうだろ」
私の手を覆うようにさながら私の感触を覚えるようにゆっくりゆっくりと力が入っていく。
「私はながく生きられていない」
彼女の握手は何故かとても物悲しく感じた。
 これは私、カスペキラの過去の回録。後に朔が脱走し彼らと殺し合うまでの記憶になる。
 戦後に残すべきものは結果ではない。同様にどちらかに責任があるかでもない。同じ生きるものたちがどれほど心を砕き争ったか。その事実ことこそが最も重要だと私は思う。












 あの男……黒雷…殿でいいか。雇い主だからな。もっと早く知りたかったな。あの後黒雷殿と外出をした彼を私は迎えに行った。そして、今は二人で歩いている。合流した時はまだ暮色であったが駐屯軍と幾分か離れたところから歩き始めたため目的地付近に着いた今はもうすっかり暗くなっていた。彼の着物は汗で濡れていた。秋だからといってもこの時節の山の夜はかなり冷え込む。あの刀の効力がどこまでのものかは定められないがどう考えても今の状態はまずい。数日間も血を失いさらにまともな食事すら取ってない。体温を維持するための細胞の働きができているか甚だ疑問に思えそもそも普通に歩いていることすら疑問に思える状態だ。
「どうした」
喉仏がない喉が動いた。彼の瞳が同じ高さにある。今更ながら彼の身長はまだ私とそう変わらない。
「私の上着を貸そう」洋服の上着を脱ぎ始める。「歩くのは辛くないか。よければ肩を貸そう」
「いい」
「遠慮をすることはない」私は立ち止まり腕にかけた脱いだ上着を差し出す。彼は私の頭上を一瞥すると「いい」と気概のない声で言った。「私が物の怪だということが君の遠慮する理由に繋がっているのか」
「いや、そうじゃない」
彼は顔を前に向け言った。
「–––––何かあったら言ってくれ」
私が歩き始めると彼も半歩遅れて歩き始めた。彼は「あぁ」とくぐもった声で返事をした。

 下生えを抜け石畳が川沿いに連なる道に出る。川に近い石畳の端で歩く彼は闇に溶け込んだ清流を眺めている。水面から何かが弾んだ音が聞こえるとすぐに瞳を動かして目を細めた。しかし闇の靄のせいでうまく見られないのだろう。そう時間が経たないうちに目を先の道に向けた。
「家………がある」
「急に人工物が出て驚いたか」
「あぁ」彼は瞳を閉じ深呼吸する。「水の音や澄んだ空気、石畳についた苔の匂い、それに………徐々に大きくなる音は水車だな。川の流れに似て穏やかな音を出している」
家から漏れる明かりを薄く伸ばす苔むした石畳を踏む。川の流水にはさながら蛍光のような仄暗い無形の光が浮いている。彼の開いた瞳は明かりを反射してまつ毛を根本から明るくさせている。洞窟では判然としなかった瞳の色がありありとわかる。薄茶色の透度の高いまるでまだ不純物を含んでいない水晶のようだ。
「気に入ってくれてよかった。暫くここで生活することになるからな」
「ここで?」
「君をよく思わない連中は当然多い。彼らがいなくなった後でも同じような事例は今後も起こる可能性がある。あぁあと、洞窟も壊れたからな。それに刀が黒雷殿の手元にある限りは逃げないだろうという判断の下らしい」
家の前に着いた私たちに格子状の影が重なる。私は手を戸にかける。
「だが黒雷からそんな話は」
「彼の直属の部下らしい女性からそうして欲しいと言われた」
「どうして。俺にとって都合のいいことじゃないか」
「立場が違うだけだ。根本的には抵抗軍の人間ではなく君は君だ」私は戸を開ける。「少なくても一つ目にとっては弟と君に大差はないらしい」暖かい空気が冷えた体を出迎える。カツオの出汁が鼻を抜け喉を湿らし胃袋に落ちていく。思えば昨日の昼から水以外何も口に入れてない。玄関から正面の一番奥にある階段横にある部屋から話し声が響いている。私は口の中から溢れだすよだれを飲み込み式代に座る。「早く家に入って戸を閉めてくれ」
「一つ目がいるのか」
戸を閉めた彼は周囲を見渡しながら小幅で歩き私から離れたところに座る。近くの百味箪笥を見上げ少し観察すると靴を脱ぎ始めた。
「君の友人もいる」
靴を脱ぎ終えた彼は立ち上がり声が聞こえる部屋を見る。彼の息が漏れ肩が下がる。私は本が散らかる机に歩いていく。
「その…………」
「トイレは奥にある階段の右側だ」机を跨いで本棚の下段にある引き出しを開く。中には蝋燭がある。ここは蝋燭がなければ夜の視界が確保しづらい。できれば人数分あればよかったが三本しかない。「あぁそれに君は今日は固形物を食べてはいけない。彼らには悪いが私が今から用意するもの食べてくれ」
「ありがとう………」
私の息が止まる。私が聞くに値しない言葉だ。蝋燭を取り出すために棚に入れた手を棚から出す。私の瞳は何の変哲もない蝋燭を写している。
「私は何もしてない」
振り向く勇気は到底ない。
「一つ目を救ってくれた。それに…俺が生きているのもあなたのおかげ……だ」
「私は医者としての役割を演じていただけにすぎない。その言葉は自分の信念の下に行動した彼に言うべきだ」
「あなたの言っていることはわかる。礼を言うことが正しいことなのかはわからない。だけど、救われた事実は変わらない」
「私は君の敵に加担するものだ。いいのか」
「それは…………」奥の部屋から大きな笑い声が聞こえる。途端にほのかな酒気が私の鼻を通る。「––––––––––俺は先に行く」
「了解した––––––––––。」
鼓動が鋭利なナイフになり心臓を痛めつける。脈が血を通るたびにそれは当然繰り返される。私の構造は人間に似ている。しかし人間ではない。だが、物の怪というほど見た目に差異はなく力も特出してあるわけでもない。私はどちらでもないが故に傍観者になれた。故にどちらの世界の在り方に疑問を思い馴染めなかった。私なら彼らのようにならないと愚かなまでの自負があった。しかし現実は私も愚かな個でしかなかった。彼の現状を知りながら周囲の雰囲気に同調しそうなることは仕方ないと……外部の自分には関係ないと思っていた。無意識下で彼を殺そうとしていた。一つ目が言う通り彼は本当にただの子供だ。集団の潮流に逆らい一つ目だけがその紛れもない事実を見ていた。私は私が愚かだと定義した誰かに簡単になっていた。





 私が彼らのいる部屋に入ると入口に近い椅子に座っていた空喰とすぐに目が合った。その隣には彼が座っている。彼女は私の記憶にない酒瓶を指先でこんこんと突つく。私は首を横に振り彼女の正面の座席に歩いていく。椅子を引いた私は体を斜めに倒し机の中央の鍋に隠れる彼の手元を見る。皿の上には食べかけの白菜がある。
 固形物を食べるなと言ったに食べたのか
椅子に座り一つ目と彼の会話の邪魔にならないように慎重に椅子を引く。笑い声は聞こえないがつつがなく声が聞こえる。一つ目はいつも通りだが彼は瞳を重そうに下げている。しかし相槌を打つときは瞳を上げる。
「朔は兄弟がいるのか」
「家族は父と母が別れたから母だけだ。そっちは」
「俺のところは大所帯だぜ。上に男が三つで下には弟と妹がいる。兄貴たちは狩りや農作物を育てるのが得意なんだ。弟と妹は母さんの炊事をよく手伝っている。まぁ、最近は弟も妹も人間と関わりたいらしくてな。父さんとよく口論しているらしい。きっと家の中は今も一触即発な状況だろうな」
私の前から陶器が机と接触する音が聞こえた。前を向くと彼女がよそってくれた鳥や牛蒡などが入った皿があった。
「ありがとう」
手を伸ばし皿の底を掴むと酒の入ったお猪口が登場した。彼女は微笑みお猪口を持った手を私に向けて待機している。
「どうして……一つ目は雷神軍に入ったんだ。人間を恨む理由があるように見えない。そのまま家族と過ごしてよかったはずだ」
「俺もできればそうしたかったがこのままだと俺たちの生活している自然も人に壊される可能性がある」一つ目はお玉をとり鍋の具材を自身の皿によそう。朔の深刻な雰囲気と違い彼の様子は何気ない話の一環のようだ。「仕方ないと言うつもりはないけどおれにとって一番大切なのは家族だからさ。それを守る手段として現状一番現実的だったのが雷神軍だっただけだ。あ、けど、今は大将の理想の助けになりたいってきもちもあるぜ」一つ目はお猪口を交わす私たちに気づく。「先生、俺も一杯だけいいっすか」
「だめだ。何度も言っただろ」
「なら私がお前の分まで呑んでやろう」
「それじゃ意味ないですよ」
彼女はお猪口を一気に呑み干しはぁと恍惚なため息をつく。一つ目はそのわざとらしい姿に
「性格が悪い。絶対に性格が悪いっす。鬼ってみんなそうなんですか」
と指を指していった。
「お前は本当に揶揄いがいがあるな。いい反応をする。よく兄妹に悪戯されていただろう」
「え?なんでわかるんですか」
「なぁ、一つ気になったがお前たちは有性生殖なのか」
「ゆうせい?なんですかそれ」
「私もそこは気になっていた」
一つ目は口を閉じ返答を待つ私たちを引き気味で交互に見る。
「なんか怖いですよ。お二人方」
「君たちに個体差があるかも知りたい」
「そのー。よく意図がわからないんですけど」
「さっきは家族の話をしてじゃないか。それと一緒だ」
「さっきと違うような気がするんですけど」
一つ目の話に注力している私はお猪口に入った酒を水と間違え一気に呑み干してしまう。そこから徐々に体温が高くなり頭痛もするようになった。一つ目と彼女が話しているが頭が呆然としてうまく聞き取れない。程なくなのか。しばらくたった後なのか。時間の経過はわからないが全身に力が入らなくなり頭を机に強打してうつ伏せで気絶した。………らしい。
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