終章 その呪いが何かに変わるまで  二

文字数 7,565文字

 稲妻が地を這うように伸びひのかの足元を過ぎる。急激に成長する木々が雪原を割りひのかを上に押し上げる。空気の抵抗が上からひのかを圧迫し体に重い重力がかかる。膝が曲がり押し上げる木々に密着してしまう。しかし、大きな一呼吸をして強引に上体を動かし重力の金縛りの中で動く。先端を尖らせた木々の塊がひのかに向かう。ひのかの内側から溢れ出るように炎が現れる。そして、炎の弓を顕現させたひのかは炎の矢を射る。炎の矢は襲いかかる鋭利な木々の塊を貫き延焼させていく。木々はたちまち炎に焼きつくされ乾燥した破裂音を響かせる。足元にある体を押し上げている木々の塊の成長が止まりようやくひのかの体が自由になる。しかし、立ち上がったひのかの視界は木を燃やす炎と吹雪がぶつかりあいできた濃い白煙に阻まれている。ひのかは顔を下げ地面との高低差を確認しようとするが白煙のせいで何も見えない。
 ここは足場がない。射手の私を相手が距離を取れないように追いこんだってことは…………。

 足場のない白煙の中ではあの女は身動きが取れない。不要に地面に落ちれば下から生え上がる植物に刺し殺される可能性があるからだ。故に––––––。
ひのかを上げた木々の塊を中心にしてわざと地面が割れる音をそこらじゅうに響かせ乱雑に木々を生えさせ成長させる。若雷は白煙の中で成長していく木々に飛び移りながらひのかが立つ木の高台に向かっていく。そして白煙の中で時折、稲妻をはしらせひのかの瞳にいれさせる。稲妻は四方から出現しては消え高台の下からは植物が地面を割り成長していく音が鳴り響いている。
 あの女の炎の矢は確かに強力だがやり方を変えれば問題ではない。
若雷は高台に伸びる太い枝の上に乗り走り始める。乗っている枝の上で稲妻が刃物の光のようにまっすぐ伸びる。すると枝先が隆起し突起物が現れる。若雷はすれ違いざまにそれに手を入れ突起物に稲妻を走らせる。

 白煙の中から突如細長い枝が現れひのかを貫きにかかる。それは同時に三方向から襲いかかる。狭い高台にいるひのかに逃げ場はない。
「終わりだ」
枝先を蹴り上げ木の槍を持つ若雷が高台に向かう。分厚い白煙を破り槍を構える。すると、猛烈な熱風が突風のように体を過ぎる。周囲を包んでいた白煙が吹き飛び緊張感だけが周囲に残る。ひのかに向かう木々は彼女に触れる直前で炎に変わり灰になる。ひのかは周囲に細い炎を出す薙刀を構え若雷と向かい合っていた。薙刀を持つひのかの姿は武芸の極地にいるものとほんの僅かにだが気配が似ている。演舞するように断続的に出現する炎の動きに反しひのかの構えは幽寂な空気が馴染むほどに静かだ。ひのかの瞳に引き込まれるように若雷の瞳が止まる。
 まずい。
若雷は飛び上がってからまだ足が宙に浮いている事実に戦慄する。吹雪がひのかを一瞬だけ隠す。薙刀が吹雪を裂く。一瞬にしてひのかの炎が彼の瞳を乾かすほど近くにある。
 ––––––こいつは鏖刀と同じタイプだった。
もうひのかの薙刀が肩に振り下ろされている。若雷は槍を回し薙刀が完全に振り下ろされる前に下から薙刀の柄にぶつける。するとひのかはすぐに薙刀が上に飛ばされた勢いを利用して薙刀の穂を自身の体に向け石突を若雷に向ける。そして槍のようにそれを若雷に押し当て突き飛ばした。高台を取り囲むように成長してできたいくつもの木々が重なる壁にぶつかる前に若雷は稲妻をはしらせ枝を成長させ樹冠をつくり衝突した。直後に一矢の炎が若雷が衝突した場所を貫く。周囲の木々は爆発するように四散しその一帯の木々の壁に穴が開く。高台から降りて雪原に足を着けたひのかは焼けた木片が無惨に散らばる壊れた木の壁に歩く。顔や瞳を動かし壊れた壁の周囲を確認するが若雷の姿が見つからない。
 直撃したはずじゃなかったの。
ひのかは片手をかざして炎を出してそこから薙刀を出現させる。吹雪の音以外に何も聞こえるものはない。静かすぎる雪原がまだ戦いが終わってないことを厳かに告げている。ひのかは少しずつ歩き壁の裏側に隠れているであろう若雷に近づく。一歩ずつ一歩ずつ警戒して近づいていく。足に固い何かがぶつかる。ひのかはすぐに顔を下げ足元を確認する。
 –––––––––。
ただの木片であった。一瞬だけ気が緩んでしまったひのかは思わず息を吐き出す。過度な緊張感から一転してでた安堵の息はとても長く唇から一滴の唾液が垂れ落ちてしまう。ひのかは拭き取るために手の甲を顔に近づける。すると痙攣するかのように微細に揺れている自身の手を初めて見た。恐怖に憑かれているその手に彼女はぼんやりと死体と怒声に溢れていたあの襲撃された街を思い出した。
 私…………………戦ってるんだ。
現実にある感触と思えないほどに彼女は曖昧に実感する。突然、瓦礫に押し潰された死体が頭に浮かぶ。瞬きをすると片足が切断された死体が目の前にある。乾燥しかけた赤黒い血がどこまでも長く伸びている。ひのかはたじろぎ足を一歩下げる。たちまち足元にまで伸びた血は油のような光沢を放ち錆びた鉄の臭いをふんだんに含んだ臭いにおいを吐き出す。激しい吐き気を覚えたひのかは口元を両手で押さえ膝が崩れ落ちる。その瞬間に腹部に足蹴りが入り込む。ひきつった胃に入った強烈な一撃は容易くひのかを嘔吐させ華奢な体を飛ばす。息がうまく吸えなくなったひのかは混乱して受身がとれず雪原に落ちる。落ちた衝撃はひのかに嗚咽を漏れ出させるが皮肉にもそれのおかげで呼吸の仕方をようやく思い出す。
「気の悪い女だ」片腕から血を垂らす若雷は六歩先で地面に伏せるひのかを侮蔑する。雪原に頬をつけるひのかの口の近くには飛び出た胃液が飛散している。「加減するどころか吐き散らかすなんてな」
「–––––は–––––––はっ–––––––––––––」
ひのかは肩を揺らし必死に呼吸をする。戦いは決している。ひのかは立てない。仮に立てたとしてもその呼吸では若雷の猛攻を耐えることはできない。
「なんだ。その目は」
開けられた瞼は柔らかなそうな曲線を描き瞳はまるで優しい光を見るように穏やかだ。
「……………」口から息を吸ったひのかは咳を辛そうにする。すると眉間に皺がより瞼も皺ができるほど深く閉じられる。しかし、それが終わるとひのかの瞳はまた同じように彼を見る。「………かおをみて今、はじめて分かりました」
若雷はその顔にそこ知れぬ怒りを覚える。その目は彼にとっては自分を問いただすように映っている。
「何にだ」
「すごく………すごく悲しんでるって」
「命乞いのつもりか」
「だから………」ひのかは肩を揺らす。本当は話すことすらままならないほどに息をするだけで苦しい。だが、彼女は若雷を前にしてそんなものはささいなことでしかないと感じている。「……このせかいはかなしいことだけじゃないってつたえたいの」
「不快だ」
若雷は手を振り落とすように強く言い放つ。そして、ひのかを視界から消しカルデラ湖に歩き始める。
「わたしはっ………さくさんやあなたのような悲惨をたいけんしたことはないです。わたしにはだれかをころしていきのこるせかいなんてそうぞうできません」
「………………。」
若雷はひのかを越える。しかし、もう視界が暗転してしまったひのかは気づいていない。
「だけど、そうまでしてまもりたいものがあったんだとわかります。だからわたしはそんな––––––––」
意識が薄れていく。若雷の遠ざかる雪原を踏む足音がだんだん聞こえなくなっていく。
 あぁ、だめだ。伝えなくちゃいけないのに。
唇が僅かに動き息が漏れる。ひのかの意識は体の限界に歯向かい体を動かそうとするが指の爪先が僅かに揺れるくらいで動かなくなる。
 伝えなくちゃいけないの。
不意に見せる朔の悲しい横顔が頭によぎる。彼女の意志が体を動かす。
 同じ顔をしてる。だから、伝えたいの。
ひのかが会ったたくさんの物の怪や人間たちの笑顔が心に温度を与え視界の先に篝火を与える。
 みんな傷ついてた。多分、その傷が癒えることがないこともわかる。だけど、この世界で仲間と巡り逢えたことをみんな喜んでいた。あの人はまだ悲しみが大きすぎてそれを見落としてるだけ。
ひのかは篝火に手を近づける。
 だから、みんなの選択した世界を彼に見せたい。朔さんが多くの想いを受け取ったように彼の中にもみんなの想いがあるって言わなきゃ。
体は篝火を灯したように暖かくなり手は心の胎動に従い毅然とあの篝火に伸びていく。指先から篝火は広がり視界を覆う闇を全て取り払う。
「その光はあなたの全てを変えるわ」
ひのかの手首が何者かに掴まれる。眩い光の世界が過ぎ徐々に周囲の光景が見えてくる。ひのかは大樹の幹の中にいることに気づく。手先にある灯火からは生命の源泉である水が川となり流れている。ひのかは濡羽色の髪を持つ少女を見る。少女はひのかを脅すように凄んだ瞳になるがひのかはその意図を知るが故にか儚そうに薄く微笑む。
「私は変わりません」
「この灯火は源初の炎というの。触れればあなたは少しずつこの世界の真理に近づいていく。知識の渦の中でいずれ自分すらも認識できなくなり最後にはこの世界の成れの果てを知ることになる」
ひのかを掴む少女の手は震えている。ひのかは手首を締め付けるその手に手を優しく重ねる。すると濡羽色の髪を持つ少女の後ろにいる星のような金色の髪を持つ女性が見えた。
「大丈夫です」ひのかは言った。「私にも忘れ難い想いがあります。いつかそれが見えなくなったとしても再びそれを照らし出す光がこの世界にあると信じています」
ひのかは揺るぎない信念の瞳で少女を見る。少女の眼差しは春光に溶かされる氷のように徐々に厳しさをなくしていく。
「本当にいいの」
少女は虚しそうに言った。
「………………はい。」
少女が手をそっと離す。金髪の女性はひのかの姿が世界を守る楔になった大切な少女に重なる。
「この世界にそんな価値––––––––––」
ひのかは一瞬だけ女性に顔を向ける。気高くも悲壮も思わせるその顔に口が閉ざされる。
「みんなそんなこと知ってますよ」
ひのかの手が源初の炎に伸びる。炎はさらに輝き煌びやかな光線をひのかの体に向ける。ひのかの体は源初の炎の輝きに溶かされるように消えていきやがて意識だけとなる。この世界で生きるときにつけられたありとあらゆる名称に解放される。肉体のある世界では欲したあらゆるものや生きるために役立ったあらゆるものが意味をなさない。境界線はどこまでもなく自分が自分である必要すらない。精神だけになったそれらが集う源流は肉体世界と違い差異を見つけることの方が遥かに困難だ。全ては同じだ。この世界に分け隔てるものはなく誰かと大きく違うことはない。遥かなる星々と重なり合う源流を見上げる。星々を見る生命たちの物語が彼女に一滴の涙を出させる。
 源初の炎を手のひらに持つひのかを映す果てなく広がる地上の水が歪む。その涙は星の光に染まる。それは冥暗のようにも染まる。それは篝火を映すこともできる。




 「待って」
「そんなに早く死にたいのか」
若雷は白い息を荒らげ立ち上がるひのかを睨む。
「この世界を壊したらきっとあなたは後悔する」
ひのかの瞳に若雷は度し難いほどの怒りを覚える。台風を彷彿させるほどの激しい稲妻が彼の足元から一気に四散する。周囲の雪原は地面から生え出る無数の木々に割られ景色を一変させる。ひのかがすぐに走り始める。すると進行方向から細長い枝が雪原を割り現れわる。それは鞭のようにしなりひのかの腹部に強打する。ひのかの口から残った胃液が飛び散り勢いのままに空中に放り出される。
「こんな世界は変えなくてはならない。黒雷やあのクソガキが見る世界などまやかしにしか過ぎない‼︎」
木々はひのかに伸びていき彼の怒声に反応して肥大化していく。ひのかは炎の矢を放ち木々を穿つが木はすぐに再生して炎すらも呑み込む。
「ならあなたはどうしてそんなに怒って世界を壊すの!あなたは何に怒ってるの‼︎」
「何も知らないお前が–––––––。」曇天を透かしたような鉛色の眼光がひのかの瞳の光を殺すように穿ちみる。彼の見る世界は仲間の死に溢れている。希望があまりにもなさすぎる。そして何よりも誰にも救いが何もない。「カタナルナァ‼︎」
傷だらけ木々がひのかを呑み込む。ひのかを閉じ込めた木々は肥大化してきひのかの体を押し潰そうとする。闇に閉ざされ身動きが取れなくなりついには空気すらも無くなっていく。
 こんなのやっぱり間違ってる。大切なものがあるからあなたはそんなに怒ってるんでしょ。大切なものを蔑ろにする世界が赦せないんでしょ。
ひのかの瞳には星の記憶がある。それは彼女が朔との旅を通してさまざまな想いを受け取ったからこそ生まれた世界を見る瞳。彼女はこの世界にある怨念をその瞳で感じ取ってきた。篝火が灯る。それはこの世界の夜を照らすための夜光。
 ひのかを押し潰そうとしていた木々が破かれ曇天の灰色を茜色に変えるほどの目覚ましい光が空を覆う。その光は環状にどこまでも広がり決して消えることのない灯火をどこまでもどこまでも果てに至るまでも広げていく。燃えたぎるように激しく燃える炎は彼女の黒髪を赤に変え瞳を黎明のような聡明な緋色に変える。これは彼女の決意だ。この世界を守るためではない。彼女の信じた世界を守るための力だ。
「起きて………朔さん。あの日に見た星々の光は永遠に消えはしない」
彼女を覆っている黎明の篝火が息吹を上げる。ひのかは息を吸い篝火の空に向けられた薙刀を構える。すると、揺るぎない信念を持つひのかが篝火の塊から現れた。

 篝火の空から地上にいる若雷に急速にひのかが落ちていく。地上に根を張る無数の木々がひのかに襲いかかる。ひのかは勢炎を纏いそれらをたった一振りで薙ぎ払う。しかしさらに木々は勢いが弱まることなく連綿と襲いかかる。ひのかの緋色の髪はさらに猛々しい紅蓮に変わり火力はさらに増幅する。紅炎の一撃が襲い掛かる木々を燃やしそれらの攻撃を灰に変える。地上にいる若雷を中心に平原を覆う巨大な稲妻がはしる。すると火口からマグマが噴き上がるような勢いで巨大な木々の塊がひのかに衝突しようとする。ひのかから見る地表がそれだけに満たされるほどにその一撃は巨大なものだがひのかに恐れはない。ひのかはさらに尽きることのない想いを焚べ信念の篝火を燃やす。燃え続けるひのかと木の塊が衝突した途端に衝撃波が環状に広がり緋色の曇天に大きな穴が空く。薙刀を交えた木の塊にひのかは猛き声を上げ若雷の全てを砕こうとする。
 あなたに光を与えたものがこの世界には必ずある。悲しみの闇があなたをその光から遠ざけるなら私が–––––––––––––
「私が………………。私があなたの闇を斬り払う‼︎」
木々の塊が割れ永遠の炎が広がり始める。ひのかの一撃はさらに重くなりさらに強くなりより黎明のように気高く輝く。炎の塊が木々の塊を内側から砕きやがてそれらが根差す地表にまで光を落とす。木々の塊が完全に砕かれると篝火の果てのない輝きが若雷の元に飛来していく。若雷は次第に光の中に包まれ眼前が真っ白になる。至極燃えている炎の音は薄まり暖炉の焚き火のような穏やかにもの変わっていく。その最中、遠くで死んだ仲間たちが見えた。みんな想い想いに手を振って何か言っている。
「お前たち…………」
若雷が一歩踏み出すと足元から水面が揺れる音が聞こえた。途端に景色が暗くなり天には数えきれないほどの星々が出始める。その星の下では川のように流れる翡翠色に輝く何かがある。
「みんな、あなたは真面目だから心配だって言ってますよ」
ワクイの友人たちをひのかは見ている。ワクイはそれを聞くとすぐに食い入るように友たちに瞳を向けた。彼の記憶にある最期の彼らはとても苦しそうに死んでいった。しかし、ここで見る彼らは満足そうに微笑んでいる。
「………………………………。」
「………………………。」
みんな口を大きく広げて手を大きく振る。
「……………………なんていった」
「もう大丈夫って言ってます」
ワクイの仲間たちは背を向けずっと先にある星の地平線に歩き始める。彼らの足元にある満点の星を映す水面は波紋を広げることなく鏡面のように止水している。
「……………………。」
「……………………………」ワクイは皺がよるほどに瞼をかたくかたく閉じる。音も何も出さない、全ての感情を心の内側に留めた所作であるがひのかにはその悲痛が際限なく伝わる。「私たちも帰りましょう」
「どこに帰れと言うんだ」
「この星が見える場所に帰るんです」瞳を閉ざすワクイの視界が仄かに明るくなり瞼は人肌に触れているようにあたたかくなる。「私たちが今見ている星を教えてくれた場所があなたの帰る場所です。そこにあなたの大切なものたちがいるはずです」
心を浴すような和やかな声に導かれるようにワクイの瞼が開く。目の前には両手で大切そうに小さな篝火を持っているひのかがいる。
「だめだ。このまま帰れば結局、あいつらもこの世界の不条理に殺される」
「この世界を壊しても何の解決にもならないです。だから新たな可能性を見つけるようにしませんか」
「そんな確証のないものを俺は信じない」
ひのかは小さな篝火をワクイの体に寄せる。
「これは私が感じた世界の断片です。これをあなたにあげます」
「…………………。」ワクイは光に照らされるひのかの顔を峻厳な瞳で見る。「俺がこの世界を壊す決意が揺らぐことはない」
「あなたは人に対する憎しみを超えて彼女との彼女たちとの関係を大切にしています。だから、私はあなたの可能性を信じます」
「……………………。」
「……………………。」
「……………………。」
「……………………。」
星が瞬き生命が滂沱するこの世界で彼らは瞳を合わせる。可能性を信じたひのかの選択がワクイにどれだけの影響を与えるかはわからない。何も変わらなければ少しだけ何かが変わるかも知れない。ワクイの両手が動く。篝火をひのかのように大切に大切に抱えようとする。
「……………あいつらの笑顔を久々に思い出した。だから今回だけはお前の言葉に耳を貸そう」
ひのかは初めて見るワクイの優しい眼差しに思わず笑みがこぼれる。
「ありがとうございます」
不意にワクイは満点の星の下で流れる翡翠色に輝く滂沱する川を見上げる。それはまるで何かに呼ばれたかのように見上げたと言っても過言ではない。そして彼は恋しそうに呟く。
「あれが本来の私たちなのか…………。なんとも遠いな」
生命の源流は隔たりなくどこまでも流れていく。多くの生命が重なり合って流れているはずなのにそれは初めから一つにしか思えない。







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