第10話 編集者と読者と書き手

文字数 4,006文字

 私は受賞作品を読み、審査員の講評を読んで、自分の感想と審査員の講評の違いを知るのが好きで、よく芥川賞や小説す〇新人賞、小説〇代長編新人賞、その他の受賞作品を読んでいました。(注)現在は、全然読んでいません。

 ここでは、私が応募した作品に対する編集者のコメントを簡潔に載せます。怪しい文学賞のものもありますが、せっかくコメントいただいたので、そこは活用したいと思います。
 書き手(私)と編集者と読み手の反応が微妙に違うのだなあ、というのが分かればと思います。
 『ボーダーレス 明日のぼくら』 佳作 
 あらすじ:
 安全保障関連法案がテーマ。バイトをクビになり、仕事を探していたミヤマエが魅力的な求人を見つけ行ってみると、そこは兵士養成所だった。
 編集者コメント:
 自衛隊に関する作品。ゆとり世代が民間兵養成所に入るという発想は面白いが、話の盛り上がりもう一つ欲しかった。
 編集者コメントを読んで、思ったこと:
 まず、第一に、私自身、〈話が長すぎる〉と思っています。そのうえ、〈盛り上がりに欠ける〉とも分かっていました。
 ただ、〈どうしても主人公を不幸な目には遭わせたくない、この作品は明るいものにしたい〉、という私の個人的なこだわりのため、途中でテロリストが登場するような設定にはしませんでした。銃撃戦でもすれば盛り上がったのでしょうが……。
 小説の書き方ハウツー本に、面白い作品を書くには、「主人公をどん底に堕とすべし」旨が記載されています。その方が作品が盛り上がり、読み応えもあります。
 私はそれが、この作品に関してはできなかった。他の作品は主人公を虐めまくっているというのに……。
 それと編集者コメントには書いていませんが、私は『ボーダーレス――明日のぼくら――』とタイトルを付けて応募していましたが、『ボーダーレス 明日のぼくら』と書き直されていました。
 これはおそらく、シリーズものや続きがあるものと読み手に思わせないよう、完結した作品として副題を思わせる記号『――』を消したのではないかと思います。
 読者の反応(アクセス数):
 ノベルデイズさんに載せている八作品のうち、一話ごとのアクセス数はこの作品が二番目に低いです。
 ただ、「この文学賞にーー」を連載し始めてから、アクセス数が少しずつ上がっていますので、順位は変わっているかもしれません。お読みいただき、この場を借りて、感謝の意をお伝えしたく思います。
 本当に、ありがとうございます。
 読者の反応(アクセス数)を見て、思ったこと:
 分かります。小説を読むのって時間がかかります。同じ一冊を時間をかけて読むのなら、ユーモアやギャグ多めの作品より、深くて読み応えのある作品がいいですよね。エンタメの中でもユーモアやギャグのジャンルは人気がないそうです。……それなら、なぜ書いたんだよ。
 少しだけ弁解させていただくと、『ねこは――』(動物遺棄)、『繭』(脳死臓器移植問題)、『祈り』(虐待のサバイバー)、と立て続けに重い問題を書き、息切れしてしまい、〈笑いが欲しい〉と切実に思ったんです。
 しかし、既に次のテーマは決まっていたので、〈じゃあ、笑いありで書こう〉と決めてしまいました。作品を書いていて「楽しい。楽」と思ったのはこの作品が一番かもしれません。

 『あしぶね』 第一次選考通過
 あらすじ:
 望まない妊娠がテーマ。高校生のユイは初めて彼氏ができ付き合い始める。妊娠したことを知り――。
 編集者コメント:
 余韻を感じさせるラストだが、展開が遅く、前半が冗長。妊娠して以降の葛藤、トラブルを中心に描いた方が良かったのではないか。
 コメントを読んで、思ったこと:
 この作品は、「性」・「妊娠」・「出産」、三部で構成されています。これも私のこだわりで「性」を削除し、「妊娠」から始めることはせず、再応募もしませんでした。
「望まない妊娠」を扱ったテーマはドラマでも漫画でもあります。私はその前段階である「性」、つまり、「なぜ妊娠したのか」、「望まないなら避妊すればよかったのに、なぜそれができなかったのか」、それを書きたかったのです。
 そうでなければ、単なるストーリーになってしまい、何の問題提起にもならない、と思いました。
 文学賞側からすれば、問題提起なんていらない、小説(物語)がほしいんだ、と思っているでしょうね……。
 既述ですが、文学作品として書いたので話に盛り上がりがないのですが、諸事情(私の無計画さ)でエンタメ作品として応募しました……。
 とはいえ、自分で書いていても、話が長いと感じ(原稿用紙換算で三〇〇枚以上)、削ろうとも何度か考えました。
 しかし、話の流れができあがってしまうと、一箇所消すと他にも影響するため、消そうと思っても消せませんでした。
 読者の反応(アクセス数):
 先程も説明した通り、この作品は「性」・「妊娠」・「出産」に分かれています。「性」は第一話なのでちょっと覗いてみただけなのかもしれませんが、「性」のアクセス数が一番多かったです。次いで「出産」が続き、「妊娠」は一番少なかったです。とはいっても、三話とも、まんべんなく読んでいただいているようです。好意的な感想もいただき、とても嬉しく思います。有り難うございます。
 読者の反応(アクセス数)を見て、思ったこと:
 望まない妊娠の事件はなくなりませんし、報道されるのはごく一部で、実際、望まない妊娠で中絶する十代二十代、四十代の女性は多い、です。四十代の場合は、もうこの年になって妊娠するとは思わなかった、という理由が多いです。
 私はずっと、〈妊娠してからじゃ遅い〉、と思ってきました。ずっと疑問に思ってきたことを主人公に投影し、望まない妊娠というテーマを、十代の視点から掘り下げたつもりです。
 余談ですが、この作品は、自分の子どもには「ぼくのこと、生みたくなかったん?」と思われそうで、見せていません。もちろん、息子大好きです。子どもが大人になったら読んでもらおうかな。彼女ができたら大事にするように、と。

 『ダイヤモンド イン ザ ラフ』第二次選考通過
 あらすじ:
 アフリカの問題を、最悪の児童労働(子ども兵)の観点から書きました。南スーダンが舞台。シドはカシルと職場(ダイヤの採掘場)へ向かうが、反政府組織に占拠されていた。
 編集者コメント:
 アフリカの今を伝えようとする意欲が感じられる。暴力的な描写が多いが、背景がしっかり書かれているので非常に読み応えがある。情報を前面に出しすぎ、登場人物の気配が希薄に感じる。小説一歩手前の作品に感じた。知識を咀嚼し、シドとしての作品にしてはどうか。文中の『引用』はやめること。
 編集者コメントを読んで、思ったこと:
 自分が案じていた問題をズバリ指摘された気がしました。登場人物の気配、要するに主人公以外の登場人物(カシル、ジェイク、イルシャード等)の心理描写や生育環境の記載が少ないとは思いました。
 そして何より、『引用』が多い。小説中に『引用』を載せる是非は、ずっと、執筆を再開して以来十年以上、ずっと考えていました。後述しますが、私にとって『引用の可否』は作品の執筆方法に関わってくる大きな問題です。
 編集者の意図を酌むなら、アフリカに関する情報は最小限にとどめ、会合の場面を省き、会合のメンバー(ヤウンデ、キンシャサ、ハラーム他)は出さず、シドを主体にした物語を、シドに関わる登場人物(イルシャード、ジェイク、カシル)の心情も詳細に描き、ストーリーとして完結させてはどうか、と言っているのだろうな、と感じました。
 要するに、テーマはそこそこにして物語を書け、と。
 補足ですが、ノベルデイズさんに載せる時に、少しだけ人物の心情が分かるようにカシルとジェイクのシーンを付け足しました。

 『「編集者」と「読み手の私」と「書き手の私」の思惑の違い)』
 編集者の方はとても冷静に公平な視点でコメントをしてくれたように思います。コメントを読んで感じたのは、編集者は「物語(作品)を書いてほしい」のだなということです。……そりゃ、そうだ。
 書き手として、自分が書いている作品は本当に小説(物語)なのか、とずっと疑問でした。……あ、自分で言って、へこむ。
 一読者としての私は、「新しい気づきが得られる深い話が読みたい」と思っています。おそらく、そう思われている方は少なくないと思います。
 私の周りでも、「深い話が読みたい」、「(この本は)何か新しいことが知れると思ったけどたいしたことなかった」、「犯罪者の心理を深く知りたい」……等々、そんな言葉を耳にしました。
 しかし、矛盾していますが、読み手の私はこうも思っています。「深い話だろうが、読み応えがあろうが、ドロドロの人間模様は読みたくない。読後感が明るいものが読みたい」です。軽くさっと読めるものも、好きです……。
 私はラノベを書いていた頃は、空想と妄想を混ぜ込んで勢いで作品を書いていましたが、正直、想像だけで物語を書くのに飽きてしまい、書き手としての私は今、こう思っています。
「新しい知識を得られ、かつ深く考察できる物語を書きたい」です。
 ここで葛藤が生じます。
 編集者が欲しているであろう「面白い(売れる)作品」と、書き手の私が理想とする目標「新しい知識を得られ、かつ深く考察できる小説を書きたい」、にズレを感じました。
 具体的に言えば、私は、「ある一つの問題(テーマ)を取り上げて、専門的な知識やデータを入れながら作品を作りたい。そうすることで作品の真実味が増す」と思っています。そのため、私の作品は度々『引用』をしています。引用していない作品が少ないほどです。
 しかし、引用している限り、テーマにこだわっている限り、私の作品は小説として認めてもらえないかもしれません。
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