第3話 下読みさん

文字数 3,551文字

 さて、私が文学賞に応募する最初の動機は、『誰でもいいから私の作品を読んでほしい』でした。書き続けるうちに、「誰かに読んでもらいたい」というささやかな要望が、『小説家になりたい』という野望に変わっていったのですが……。
 『好きなことをしてお金を稼げる』なんて想像するだけで楽しいと思いませんか。とはいえ、いろんな著作を読むと分かるのですが、小説家は儲かりません。かなり、全くと言っていいほど……。それでも、最低賃金以下で生活していた私には魅力的でした。

 話は戻り、昔はインターネットもまだ普及しておらず、作品をネットで公開する手法はありませんでした。私は社会人になって会社で初めて職場でインターネットを使ったくらいです。また、私の周囲に本を読む人はほとんどいませんでした。
 それで、〈書き上げた作品を誰かに読んでほしい。文学賞に出せば、誰か一人は読んでくれる〉と思い、文学賞に出すことを決めたのです。

 ここで一つ疑問。
 『下読み(さん)は本当に作品をきちんと最後まで読んでくれるのか』
 当時、私は下読みさんという存在を知りませんでした。「下読み」とは、大手の文学賞では、応募作品が数千点にもなるため、十分の一以下に振り落とします。
 例えば、一〇〇〇点の応募作品があればここから第一次予選を通過しそうでない作品を振り落とし、六〇~七〇点前後にまで絞るとします。例えばです。実際はもっと少なかったりします。その振り分けを「下読み」さんがするのです。
 文学賞によっては、下読みさんが振り分けた一次選考通過候補作品を、さらに編集者が目を通してくれますが、下読みさんの振り分けでそのまま一次選考通過作品が決まることは珍しくないそうです。下読みシステムを取り入れていない文学賞は、全ての応募作品を編集者の方が読みます。
 一応、下読みさんは大学院生や書評家、評論家が、アルバイトで行うそうです。あまりにも過酷なので、一回、二回したら辞めてしまう方は多いそう……。
「下読みさんって最後まで読んでくれているの?」という議論は、ネットのあちこちで議論されています。
 応募する方からすれば、「一人の下読みさんの判断で廃棄されるか、一次通過できるかが決まるのだから気になる」、というのは理解できますし、私も下読みのシステムを知ってからは「〇ちゃんねる」や下読み経験者の方のサイトを読み漁りました。
 私が見つけた下読み経験者の方(著作)は、
 段ボール二箱分(二〇〇作品)を一〇作品くらいまで絞らなければいけなかったらしく、
「とても全部は読んでいられないから、読むにたえない作品、初めて小説を書いたのが丸わかりの小説は数ページで落とす、それよりまし?なのは三〇ページまで読む、最後まで読めるのは――」と書かれていました。
 ……す、数ページって、あんた……。悪ぶっているだけですよね、本当はもっと読んでいるでしょう? え? じゃあ、私が投稿したあの作品も、もしかして……。
 小説の体を成していなかったからなのか、それともとことん面白くなかったからなのか、誤字脱字だらけ、文章になっていなかったのかは分かりませんが、最後まで読んでくれない作品が多数(半数以上)ある、らしいです。
 一応、その後に、「最後まで読まれるのは大したもの」と続き、「二千人が応募したからと言って、全員と戦うわけではないから安心しろ」、といった励ましのお言葉があるのですが……。
 私は最後まで読まれていない方かもしれないと思うと、……複雑です。

 心優しい下読みさん(サイト)は、
「小説の体を成していない作品、ページ数が振られていない作品、応募要項の規定枚数に届いていない作品、または規定枚数を超過した作品など、最低限のルールが守られていない作品でない限りは目を通す」
 と書いていたと記憶しています。
 下読みさんからすると、段ボール箱いっぱいの作品が送られてきて、そこから一ヵ月で数作品に絞らなきゃいけない。
 下読みさんに割り振られる作品数は、短編か長編かで違ってくるそうですが、例えば、原稿用紙換算で三〇〇枚程度の応募原稿八〇作品を一ヵ月で読んで五、六作品に絞るとすると、一日一作品では追いつかないためトイレの時も読み続ける、みたいな経験談を読みますと、……下読みさんごとに違いがあっても仕方ない、読んで貰っていると信じるしかない、と思いました。 

 ……私は一度やらかしました。
 私が応募した文学賞は原稿用紙換算枚数と同時に文字数にも規定がありました。応募した作品『ねこはみている』は、原稿用紙換算枚数はクリアしていたのですが、文字数が足らず、原稿提出締め切り日を過ぎてから、出版社から返ってきました。
 本来なら、返さず廃棄でもおかしくないのですが、「文字数足りないよ」というお手紙までつけていただき、(こんなに気安くは書いておりません、もっと丁寧な文面でした)、返送してくださいました。
(注)募集要項にも「応募原稿の返却はいたしません」、と書かれてあったと記憶しています。 出版社の方、その節は、大変ご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした。 ……謝罪

 再び話は戻り、下読みさんからすると、「こういう原稿は止めてほしい」というのはあるそうです。
 〇原稿が汚れている。 例.ペットの〇ン、口紅(意図的?)、スナック菓子の油やジュースのシミ等。
 〇余計なものが同封されている。 例.自分の写真、自費出版した本、応募作品の資料等
 過去に、作品の資料を大量に同封した作品が受賞した例もあるにはありますが、極力止めた方が賢明です。
 〇ページ数が振られていない。ページが抜けている。
 〇話が完結していない。 「続く」と書かれてある等。
 〇字が小さすぎて読みにくい。行間字間が詰まりすぎている、もしくは広すぎる。

 私はこれを読んだ時、さすがにページ数は振るし、話が途中で終わっている原稿は出さないなあ、と思っていたのですが……。 ←……文字数足らずに原稿返ってきたのに、なぜ言い切れるんだ……。
 実はこれ、結構やりがちな失敗かもしれません。
 というのは、私は投稿前に一ページずつ確認はするのですが、三分の二以上空白のページが出てきたり(インク切れ? 紙送りのミス?)、明らかに行数や字数、行間が違っているページが見つかったり(自動調整とかカーニングになっているとこうなる)……。
 こういうことか、と衝撃を受けました。
 そういえば……。
 人生初の第一作目の作品『クロス――目醒め――』を書いた時、私はこの作品を二〇字×三〇行ぐらいで印刷し、投稿していました。字も大きければ見やすいだろうと、一二ptにしていた気がします。さらに思い返せば、余白は狭く、行間字間は広く、おまけに字も大きく(一二pt)、スッカスカでした。……読みやすいように気を利かしたつもりだったんです。
 募集要項に、よく「原稿用紙換算枚数〇〇~〇〇枚以内」と書かれていますが、これは原稿用紙と同じ設定にしろというのではもちろんなく、「原稿用紙に換算した時に〇枚~〇枚以内になるように書け」、と言っているのです。
 文学賞によっては、原稿用紙換算枚数だけを指定し、文字数や行数を指定していないものがあります。
 この作品を出した当時、文字数や行数指定がなかったのか、それとも見落としていたのかは覚えていませんが、ただ、原稿用紙の一.五倍(つまり三〇×二〇)の文字数にしておけば原稿用紙換算しやすいだろう、と思った記憶はあります。
 そして、小説の基礎的なルール、「…」は二つで一セット、「―」は二つで一セット、なんてことを知らずに、適当に付けまくっていました。 おいおい。
 何より、タイトル。
 『クロス――目醒め――』なんて明らかに「続きます」と言っているようなもんです。ほとんどの文学賞が「シリーズもの、続きものは対象外」だというのに……。
 ……よく読んでくれたな、と感謝しかありません。そのうえ、一次選考を通してくれました……。
 これを十三年後の執筆再開後もするのだから、どうしようもないな。
 『ボーダーレス――明日のぼくら――』 
 投稿時にあった副題を思わせる『――』は、公開時、文学賞側で消されていました。(汗)
 
 下読みさんについて知りたい方は、ネットで検索すると出てきます。『○○みの鉄人』、お勧めです。 紹介みたいなの書いていいのかな、ドキドキ……。

 余談ですが、二十年ほど前、私は掲示板でアレルギー相談を受け、やはり、掲示板にある学会名やURLを載せ、削除されたことが何度もありまして……。この時の経験で、あまり表立って紹介をしないようにしています。今でもURLとか載せちゃいけないのかなぁ、ドキドキ。
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