第17話 良い作品が評価されるとは限らない

文字数 2,326文字

 『良い作品が面白いとは限らないし、渾身の作品が売れるとは限らない』
 ずいぶん前になりますが、ある文学賞に一次を通過した作品で、あらすじだけですが、雨の日に猫を拾ったけれど家の人に「飼えない」と言われ、また捨てに行く、という話がありました。これに審査員か編集者かは忘れましたが、それがどうした、つまらない的なコメントを載せていました。
 しかし、私はその作品を読みたいと思いました。小学校低学年の頃、同じような体験をしたからです。
 へその緒がついている子猫を拾い家に連れて帰ったけれど、「飼えない、捨ててこい」と言われ、途方に暮れたことがあります。
 その猫はしばらく家族に内緒で友達と野外で餌をあげていましたが、いつの間にか姿を現わさなくなりました。どこかで死んだのだと思います。
 今でも、そういう作品こそ、「文学作品」として取り上げるべきではないか、と思っています。(注)エンタメ系の文学賞だったらすみません……。
 
 別の例で、芥川賞受賞作品ですが、作品に対して辛辣なコメントを載せている審査員がいました。
 作品のタイトルは伏せますが、自死を決意した主人公が船に乗りこみ、今までの記憶を振り返る内容でした。「船が出発する描写が大げさすぎる」、「自分を虐め続けた兄にどうして嫌と言えなかったのか」、みたいな講評だったと思います。
 私は講評を読み、〈死を決意して乗り込んだ船だから主人公にはそう感じたのだろう〉、〈虐められ続けると反抗できなくなるんだよ〉、と思いました。
 他にも芥川賞候補作品に審査員が辛辣なコメントをし、「同じような作品は止めて、新しい作品を書いてはどうか」みたいなコメントだったと記憶しています、作家が反論することがありました。作家のアイデンティティに関わるテーマだったからです。
 私はそれを読んだ時、〈書き手(作家)の意図や意志が審査員には伝わっていないのだろうな〉と感じました。
 書き手は自分の中で決着がつくまで、納得できるまで、同じテーマの作品を書き続ける、ことがあると思います。一生かかって同じテーマを書き続ける作家もいます。それはその人のライフワークであり、その人の一生をかけて探求するテーマなのだと思います。
「同じ作家が同じテーマを書いても、十年後、二十年後、三十年後に書いた作品は違う」
 私の友人で、そういうふうに言ってくれた人がいます。その言葉に私はとても勇気づけられました。そしてその友人は、作品(話)が長い(冗長になる)ことを気にする私に、こうも言ってくれました。
「どこを大事にして書くかは人それぞれだから、長さは気にしなくていい」と。
 第三者にはまた同じような作品を書いている、と思われても、その人にとっては生きる意味(書き続ける理由)なのかもしれません。
 岡倉天心は三冊くらい東洋の文化について書いていますが(もっと書いているかもしれません)、私はその中で『茶の本』が一番好きです。この本では、尖った部分や迷いが無くなり、東洋文化(日本の文化)の神髄に辿り着いた一冊だと感じています。
 華道、書道、武道……、日本文化に関わっている方、または関心がある方はお勧めです。是非ご一読を。
 
 話は戻り、同じテーマを書き続ける、それも文学の一つの形ではないか、と私は思います。それが売れるかどうかは別にして。
 売る側にすれば、自分が書きたいテーマは趣味で書け、と言われるでしょうが。
 研究者は純粋に抱いた疑問を解くため、役に立つかどうか分からない研究を、多額の資金と時間と労力を費やし、十年、それ以上かけて行います。私はそういう生き方を尊敬します。
 小説はペンと紙があれば書け、かかる費用は原稿を印刷するインク代と紙代くらいです。一つの作品を書き上げるのにもかかって二、三年。そういう意味では、研究者より成りやすいです。まあ、収入や待遇で言えば、研究者も小説家も過酷ですが。
 (注)日本の研究者の待遇は悪く、通常、三年に一度結果を出さなければ(論文を雑誌に載せなければ)契約更新がされず無職になります。

 別の話になりますが、新聞の下部に自費出版の宣伝があり、戦没者の氏名を書き綴った著書が紹介されていました。
 個人的には、こういう作品は、〈次世代に残していくべきではないか、それこそ図書館か、資料館や博物館に残していくべき書物ではないか〉と思います。
 売れるか売れないかと聞かれれば、売れない部類の書物でしょう。それでも残すべき類の本であると思います。
 要するに、
「良い作品が面白いとは限らないし、渾身の作品が売れるとは限らない」、ということです。
 だから、「自分が書いている作品の評価が悪くても気にしなくていい」、ってことです。
 あんまり悪いとさすがにへこみますが……。捨てる神あれば、拾う神あり。私の作品を読んでくれる方々にこの場で感謝申し上げます。
 
 一言だけ言えるのは、軽く書いた作品は見破られる、かもです。
 例え、プロが書いた作品でも、これは片手間で書いたな、というのは分かります。描写が一辺倒だし、内容は薄っぺらい。
 ○○は目を見開いた、○○は振り返り、目を見開いた。○○は目を見開き、……。
 十五ページの作品で、目を見開いた箇所がひぃふぅみぃよぉ、五つ……、そんなに驚くことある??
 文芸雑誌の連載作品だったので、きっと締め切りに追われ必死に書いたんだと思います。

 私はプロでもアマチュアでも、真剣に書いた作品が読みたいです。力を込めて書いた作品は読ませる力があり、多少の文法や視点の誤りも気にならなくなります。
 (注)誤字脱字、文法的な誤りを推奨しておりません。くどいようですが、校正はしっかりしましょう。

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