第21話 皆で気をつけよう、文学賞商法

文字数 3,336文字

 皆で気をつけよう、『講習会(セミナー)商法』、『文学賞商法』
 私がひっかかりかけた(ひっかかった?)『文学賞商法』について話していこうと思います。みなさん、ひっかからないでね。

 私はある超長編作品の応募先を探していました。既述ですが、原稿用紙換算枚数六〇〇枚ある超長編エンタメ作品だったため、応募規定に引っかかり、どこの文学賞にも出せなかったのです。
 ネット上に公開された文学賞の一覧で探したもののその中に、原稿用紙六〇〇枚程度でもオーケーな文学賞は一つもありませんでした。そこで本屋で公○ガイドを見つけ、パラパラとめくると、……ある文学賞が目にとまりました。
 ノンジャンル、五五〇枚程度まで、それ以上でも相談に応ずる、と記載されていたのです。(注)きちんと買って帰りました。
 文学賞に書かれた連絡先に電話をし、承諾をもらい、その文学賞に出すことにしました。
 そして、応募する準備を進めながらその文学賞のことをあれこれと調べました。
 ある一人の人物が創設した文学賞だと知り、その人について〇ちゃんねるやネットで調べました。(注)ストーカーではありません。
 なぜ調べたかというと、応募期間が変だったからです。通常、文学賞の応募は年に一回、芥川賞と直木賞は年二回、何年何月末日締め切りと記載されるはずが、○月~○月末日までと書かれており、その間およそ二ヶ月と短く、また創設間もない文学賞だったため、詳しく知りたかったのです。
 その文学賞創設者のサイトを調べると、小説の講習会とタレント養成セミナーの案内をしており、「講習会に入れば必ず本を出せる」、「セミナーに参加すれば必ず有名人に会える」と赤字で何度も書かれていたのです。
 〈これは怪しい〉とさすがに思い、何度も悩みましたが、応募しようとしている作品は長すぎてどこにも出せないし、文学賞のサイト自体にも奇妙な点はいくつかありましたが、この創設者のサイトよりは遥かにまともでした。 ……いいのか、それで。較べる対象が違うだろ……。
 私はこの文学賞を見つける前、百田〇樹『夢を売る男』を購読していました。
 この本は出版社の裏側や小説家や小説家志望者の実態、文学賞商法について興味深く書かれた小説です。ずっと後になって分かったのですが、その本に載っている文学賞商法と酷似していました。

 話は戻り、他に出せる文学賞がないため、悩みに悩んだ末、その文学賞に応募しました。
 結果発表の予定日は大幅に遅れ、このまま発表なしで終了かと思われましたが、発表予定日から数ヶ月経ってようやく結果が発表されました。
 結果、私の作品は佳作で、数行の編集者のコメントもついていました。この時は、純粋に嬉しかったです。
 が、後日――、一通のメールが届きました。
 「書き直せば、安いお値段で出版するよ」と。(注)もっとかしこまった文面でした。
 ISBNナンバーが付くとか、このナンバーはずっと消えないとか、国会図書館に置かれるよ、云々。
「その気があるなら連絡してね」と。(注)もっと知的に書かれていました。
 〈あああ、やっぱり〉とそのメールを見て、落胆しました。『夢を売る男』に書かれた文学賞商法、そのまんまでした。
 メールをスルーした後もしばらくは未練がましくそのメールを削除できませんでした。もしかしたら、本当に真面目な話で、チャンスだったのではないか……、と。
 結局、ぐっと堪えて、メールは削除せぬまま、返信もしませんでした。
 それからしばらくして、どうやら同じようなメールが他の方々にも送られていたようで、文学賞側が「違います。関係ありません」という旨をサイトに載せていました。(注)もっと丁寧かつ真摯な文面でした。
 文学賞を運営する方々は真面目な人が多かったかもしれませんが、元からおかしな点はいくつかありました。気づいていて、応募したので後悔はありません。へこみはしましたが。

 では、どこがおかしかったか……。
 〇あなたの作品の良さが分かる人にだけ届けます。という宣伝文句。
 これは穿っていえば、売れても売れなくてもいいです、カモになってくれれば――という誘い文句です。……あああ、自分で言ってへこむ。

 〇佳作作品がやたら多かった。
 文学賞側の発表では、応募作品が三百ほどあったそうです。そのうち受賞作が一作品、佳作は七作品ありました。
 通常、毎年開催される文学賞であれば、その文学賞の対策や傾向を調べ準備万端で書いた作品がこぞって応募されるでしょう。それでも、応募作品が一〇〇〇作あれば、受賞作品一つと、佳作は多くても二作ほど。そして、佳作は本にならないことがほとんどです。
 この文学賞は突然出てきて、今から二ヶ月以内に作品を送ってこい、です。(注)もっと丁寧な言い方でした。
 それで受賞作品と佳作作品合わせて八作品もあるのは、客観的に考えておかしいです。
 もちろん、他の文学賞で惜しいところまでいった作品も含まれていたと思いますが、ここまで高確率だと、本になるページ数があり、小説の体を成しているものを『佳作』にしたのかなと思ってしまいます。
 また、この文学賞の応募要項に、受賞した作品は本になると記載されていましたが、佳作作品が本になる旨の記載は一切ありませんでした。
 『夢を売る男』では、佳作作品を多めにとって、その後、佳作になった人に電話をして、「あなたの作品は素晴らしかった。受賞してもおかしくなかった」と褒め称え、共同出版と見せかけた自費出版(プラスぶん捕り金)を持ちかけます。 
 国会図書館における、ISBNコードがつく、特別に安くします……と言って、自費出版代プラス○○万円を騙し取るのです。
 い、一緒じゃん。私はメールだったけど。
 『夢を売る男』の中では、印刷部数を減らし、限られた本屋にしか納品せず、宣伝もせず、といった様々な手段で費用を極力抑え、浮いた分のお金百万円以上を騙し取るのです。

 〇その文学賞の出版社から出ていた書籍の評価がやたら高かった。
 小説や書籍の評価が五.〇になることはまずありません。私はそう思います。商品棚に並べた本に書店員さんが本の評価を表示してあるのを見ますが、五.〇は見たことがありません。芥川賞作品でも、ベストセラー作品であってもです。
 文学賞の創設者の本だけが五.〇で、コメント(一〇人くらいだったかな)も好意的で、(その文学賞から出た)他の本も四.七五、コメントも高評価。……意図的に操作されているとしか思えませんでした。

 何より、
 〇メールが怪しすぎた。
「ISBNコードがつきます」、「国会図書館に納められます」、「共同出版で安くします」、これは文学賞商法の常套句だそうです。
 繰り返しになりますが、文学賞の応募規定に「佳作作品でも出版します」といった文言は一切書いてありませんでした。
 そしてその怪しいメールは、文学賞の名前と住所は書かれていましたが、連絡先が、名字と携帯の番号だけでした。
 考えすぎかもしれませんが、お金が絡むような文書やメールはフルネームが基本ではないかと思います。……もし、同じ姓の人が会社にいたら、誰が言った、どっちが言った、ってなると思うんです。姓しか書かないのは、名前を知られたくない後ろ暗い事情があるからではないか、と思いました。それに連絡先が(出版社の)固定電話ではなく携帯の番号って、いかにも怪しすぎるだろ……。

 〇創設者のサイトが怪しすぎた。
 セミナーに入会したら必ず本を出せる、有名人に会える、どう考えても嘘くさいです。入会金が六〇万くらいだったかな。別途、講座料を払うとしたら……、自費出版できてお釣りがきます。(注)当時の相場で。

「文学賞商法」について詳しく知りたい方は、『夢を売る男』著者:百田尚樹 をご一読下さい。私はこの本のおかげで引っかからずにすみました。感謝

 まあ、編集者?のコメントは貰えたし、今後、他の文学賞に応募する時の筆歴に『佳作』と書かせて貰おう、と思って、この件は吹っ切りました。騙されました、だけでは悔しいじゃないですか。ただでは転ばんぞ、と。

 ちなみにこの文学賞は今現在は存在していませんので、ご安心ください。

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