第12話 ユピックエスキモー語の実例

文字数 1,121文字

それでは、エスキモー語の全体的な枠組みを述べたところで、この言語の第一人者である、
東京外国語大学の宮岡伯人(みやおかおさひと)教授の書物を参照しつつ(特に岩波新書23ページの表1-2)、ユピックエスキモー語の実例を見て、少しでも身近に感じていただけたらと思う。

1)ひとつの単語からさまざまな単語(文章と同等の内容もある)を派生できる
(1)カヤック qayaq 「カヤック(単数)」
(2)カヤハパカ qayar-pa-ka 「俺のおおきいカヤック」
(3)カヤハパッリウガ 「俺はおおきいカヤックを作っている」
qayar-pa-li-u-nga
(4)カヤハパリーヤガーカ 「俺のおおきいカヤックの作り方」
qayar-pa-li-yara-qa
(5)カヤハパリーユガーカ 「俺は彼におおきいカヤックを作ってやりたい」
qayar-pa-li-yug-a-qa
(6)カヤハパリーユカーピヒタカ 「俺は彼におおきいカヤックをぜひ作ってやりたい」
qayar-pa-li-yu-kapigt-a-qa
(7)カヤハパリーユカーピヒトシカ 「俺がおおきいカヤックをぜひ作ってやりたいこと」
qayar-pa-li-yu-kapigte-I-qa
(8)カヤハパリスクッサアカムクン 「俺はお前におおきいカヤックを作ってもらいたいのだけれど」
qayar-pa-li-sqe-ssaaq-a-m-ken
●単語
(1)qayaq「カヤック」(2)-pa-「おおきい」、-ka/-qa「私の」(3)-li-「作る」
-u- 直説法自動詞、-nga「私が」(4)-yara-「~し方」(5)-yug-「たい」
-a- 直説法他動詞、-qa「私が彼に」(6)-kapigt- 「ぜひ」(7)-I-「こと」
(8)-sqe-「~してほしい」、-ssaaq-「だが(実際は)」、-m-「私が」、
-ken「君に」

2)動詞は名詞よりはるかに複雑で、人称関係、(直説法、希求法などの)(ムード)により変化するため、ひとつの動詞がとる屈折接尾辞は400種以上にのぼる。さらに、時制(テンス)(アスペクト)(ヴォイス)などの区別も考慮にいれると、ひとつの動詞がとりうる形は膨大な数にのぼり、容易に計算できない(激しい屈折…フィンランド語を難しいと言ってられない)。



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登場人物紹介

スヴェン・イルマリネン。フィンランド・オストロボスニア生まれ。24歳で帝政ロシア軍中尉。3年間の流刑の後、27歳で言語学者ネストリ・ミクライネンの助手としてシベリアならびにアラスカ、カナダ、グリーンランドのエスキモー語の調査を行う。名狙撃手。

ネストリ・ミクライネン。フィンランド、サイマー湖畔出身の言語学者。大帝エカテリーナ(二世)の腹心、ダーシュコヴァ夫人に頼んで、スヴェン・イルマリネンを言語学フィールドワークの助手にしてもらう。年齢不詳。中年。おそらく40代。ヴァイオリンが得意。

エカテリーナ大帝(二世)。フランス革命後はロシアの自由を制限したが、農奴を自由にする法律を作った以外は、文化芸術に造詣が深い賢帝。例えば、自分の身体でワクチンを試しもした。ダーシュコヴァ夫人に、スヴェン・イルマリネンの恩赦を許した。

ダーシュコヴァ夫人。ロシアアカデミー総裁。ネストリ・ミクライネンの求めに応じて、スヴェン・イルマリネンを助手にするため、エカテリーナ大帝にスヴェンの恩赦を願い出て受け入れられる。醜女と言われているが、エカテリーナ大帝のクーデターに協力し、長く信頼関係にあった(が晩年は別れた)。

セレブロ(銀)。土星のイヌイット群衛星(本当にそういう衛星が土星にあるのです、仰天しました!)から時空を超えて地球の帝政ロシアに飛来した巨人族。女性科学者。ダーシュコヴァ夫人から依頼されて、ネストリとスヴェンのシベリア言語調査を支援する。その理由は故郷のイヌイット衛星群の名にあった。

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