第7話 ドラムダンス

文字数 574文字

チュクチのトナカイの群れは、ネストリもスヴェンも遠くから見せてもらったが、夏の放牧にも冬の移動にも中途半端な時期だったので、スヴェンが言語調査をした若い猟師が、仲間を集めて、野外でドラムダンスを披露してくれた。美味しいトナカイ肉をご馳走になった後に。

暖かい民族衣装に身を包んだ若者たちは、野外で、天気のいい日に、二人のフィンランド人と、村の人たちを前に、大きくて薄い、片面だけを叩くチュクチの太鼓を持って踊りながら、歌った。バチを使って叩き、先は丸くなっている。




自分の土地があり、その上に住めるのはなんと素敵なことだ
この白い大地にしっかりとテント式住居(ヤランガ)を建てよう

古来チュクチの人々は、ピョートル大帝の時代に、ほかの民族と違ってロシアに刃向かった。それで酷い虐殺もあったし、女や子供も虐待された。
その後、支配はもっと緩やかになったが、それでも飼っているトナカイの数が少ないことが検査で分かり、責任者の若者が牢獄に入れられたことがあった。トナカイの数が少なかったのは、一番強く、賢く、独立心の強いトナカイが群れを飛び出し、それにつられて多数のトナカイが逃げ出してしまったためだった。ほとんど不可抗力の出来事だったが、その理由は聞いてもらえなかった。結局、若者はおかしくなって獄死してしまった、とあるお婆さんがネストリとスヴェンに涙ながらに話してくれた。
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登場人物紹介

スヴェン・イルマリネン。フィンランド・オストロボスニア生まれ。24歳で帝政ロシア軍中尉。3年間の流刑の後、27歳で言語学者ネストリ・ミクライネンの助手としてシベリアならびにアラスカ、カナダ、グリーンランドのエスキモー語の調査を行う。名狙撃手。

ネストリ・ミクライネン。フィンランド、サイマー湖畔出身の言語学者。大帝エカテリーナ(二世)の腹心、ダーシュコヴァ夫人に頼んで、スヴェン・イルマリネンを言語学フィールドワークの助手にしてもらう。年齢不詳。中年。おそらく40代。ヴァイオリンが得意。

エカテリーナ大帝(二世)。フランス革命後はロシアの自由を制限したが、農奴を自由にする法律を作った以外は、文化芸術に造詣が深い賢帝。例えば、自分の身体でワクチンを試しもした。ダーシュコヴァ夫人に、スヴェン・イルマリネンの恩赦を許した。

ダーシュコヴァ夫人。ロシアアカデミー総裁。ネストリ・ミクライネンの求めに応じて、スヴェン・イルマリネンを助手にするため、エカテリーナ大帝にスヴェンの恩赦を願い出て受け入れられる。醜女と言われているが、エカテリーナ大帝のクーデターに協力し、長く信頼関係にあった(が晩年は別れた)。

セレブロ(銀)。土星のイヌイット群衛星(本当にそういう衛星が土星にあるのです、仰天しました!)から時空を超えて地球の帝政ロシアに飛来した巨人族。女性科学者。ダーシュコヴァ夫人から依頼されて、ネストリとスヴェンのシベリア言語調査を支援する。その理由は故郷のイヌイット衛星群の名にあった。

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