第10話 エスキモーという言葉

文字数 939文字

エスキモーの人々は、自分たちをエスキモーとは言わない。この言葉は、エスキモーの人々がアメリカインディアンに会ったとき「生肉を食べる人」という侮蔑的な意味で使われたからだ。



私たちがエスキモーと言われて思い浮かべるのは、こんなイラストではないだろうか。北極圏の雪の家、イグルーに住む人たち。

エスキモー語は、ユピックエスキモー語を含む西エスキモー語と、グリーンランド、カナダ、ユピック以外の東エスキモー語に分かれる。

ヨーロッパに近い西エスキモー語なら、たとえばユピックエスキモー語では、自分たちのことを「ユック/チェフ」と言う。これは「人」を表す言葉だ。1980年の調査で推定話者数は13,000人。
他の西エスキモー諸語では、「スック」「ユーク」「ユフ」などとなる。しかし、これらの西エスキモー諸語の推定話者数は同じく1980年でどれも1,500人以下である。ユピック語が一番多いのであるが、それでも英語の強い影響にさらされている。

東エスキモー語では、デンマーク、カナダ、アメリカ合衆国に話者がわたって存在するが、「イイ/イニック」「イヌック/イヌン」「イニュック」「イヌック」となる。ここからカナダエスキモーを表す「イヌイット」も生まれたのだろう。同じく1980年の調査によると、グリーンランドには42,000人、カナダには17,000人、ユピック以外のアラスカには5,000人の話者がいると言う。しかし、グリーンランドではデンマーク語が、カナダではフランス語が、アラスカでは英語が先住民族の言語に影響を与えている。若い人を含めて、先住民族言語を保存する取り組みも存在するのだが。

ある意味こんなに「自称(人を表す語)」が異なるので、西エスキモー諸語、東エスキモー諸語と、言語学者が分類することになったのだろう。エスキモーと言わないで「イヌイット」と言ったら、それはカナダに住むエスキモー民族のことを差す。彼らはイヌクティトゥット語で「人」を意味する Inuk の複数形、すなわち「人々」という意味の民族名「イヌイット」を自称しており、一般的に「イヌイット」と呼ばれる。 別の地域の人々は、別の正式名称がある。だからまとめるのに「エスキモー」という言葉を便宜上使っているのではないか。

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登場人物紹介

スヴェン・イルマリネン。フィンランド・オストロボスニア生まれ。24歳で帝政ロシア軍中尉。3年間の流刑の後、27歳で言語学者ネストリ・ミクライネンの助手としてシベリアならびにアラスカ、カナダ、グリーンランドのエスキモー語の調査を行う。名狙撃手。

ネストリ・ミクライネン。フィンランド、サイマー湖畔出身の言語学者。大帝エカテリーナ(二世)の腹心、ダーシュコヴァ夫人に頼んで、スヴェン・イルマリネンを言語学フィールドワークの助手にしてもらう。年齢不詳。中年。おそらく40代。ヴァイオリンが得意。

エカテリーナ大帝(二世)。フランス革命後はロシアの自由を制限したが、農奴を自由にする法律を作った以外は、文化芸術に造詣が深い賢帝。例えば、自分の身体でワクチンを試しもした。ダーシュコヴァ夫人に、スヴェン・イルマリネンの恩赦を許した。

ダーシュコヴァ夫人。ロシアアカデミー総裁。ネストリ・ミクライネンの求めに応じて、スヴェン・イルマリネンを助手にするため、エカテリーナ大帝にスヴェンの恩赦を願い出て受け入れられる。醜女と言われているが、エカテリーナ大帝のクーデターに協力し、長く信頼関係にあった(が晩年は別れた)。

セレブロ(銀)。土星のイヌイット群衛星(本当にそういう衛星が土星にあるのです、仰天しました!)から時空を超えて地球の帝政ロシアに飛来した巨人族。女性科学者。ダーシュコヴァ夫人から依頼されて、ネストリとスヴェンのシベリア言語調査を支援する。その理由は故郷のイヌイット衛星群の名にあった。

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