第28話 エピローグ

文字数 806文字

ネストリ・ミクライネンとスヴェン・イルマリネンは、ほぼ二年にわたる北の言語フィールドワークを終えて、エカテリーナ大帝(二世)の壮麗な宮殿の一室に三か月あまり缶詰になり、フィールドワークのレポートを、ペンとインクとロシア語で手分けして書いた。


★エカテリーナ宮殿

その後セレブロとダーシュコヴァ夫人の列席のもと、エカテリーナ大帝に拝謁し、二人のレポートは女帝に大変褒められた。
「これからも大ロシア帝国の文化発展に尽くしてくださいね」
女帝は微笑みを浮かべて言い、ダーシュコヴァ夫人もうなずいた。が、二人のフィンランド人の気持ちを本当に分かっているのは、セレブロだけだった。
二人のフィンランド人は、話者が少なかろうと、絶滅に瀕していようと、自分たちの言語を生き生きと話す北国の人々がうらやましかった。自分たちにはフィンランド語があるのに、それを公の場で使うことは、今の状況ではできなかった。

エカテリーナ大帝はネストリとスヴェンをロシアアカデミー会員に加え、ダーシュコヴァ夫人への報告を条件に、自由な研究をして年俸を頂くことになった。

ネストリ・ミクライネンはサイマー湖畔の小さな家に帰ることになり、スヴェン・イルマリネンはオストロボスニアの狩りの小屋に戻ることになった。

「私もいったん故郷の土星のイヌイット群衛星に帰ります。フィンランドはすぐにロシア帝国から独立できないかも知れないけれど、根気よくサイマー湖とオストロボスニアでフィンランド語の収集をして、そのときに備えてください。私からも、フィンランド語は偉大なロシア帝国の宝石であることをダーシュコヴァ夫人によくお話しましたので」
とセレブロは言った。


★サイマー湖畔


★オストロボスニア

二人のフィンランド人の言語学者は、胸に熱いフィンランド語への思いを抱きながら、それぞれの故郷に帰っていった。彼らは離れても、よく手紙を書いて研究の進捗について話し合ったということである。

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登場人物紹介

スヴェン・イルマリネン。フィンランド・オストロボスニア生まれ。24歳で帝政ロシア軍中尉。3年間の流刑の後、27歳で言語学者ネストリ・ミクライネンの助手としてシベリアならびにアラスカ、カナダ、グリーンランドのエスキモー語の調査を行う。名狙撃手。

ネストリ・ミクライネン。フィンランド、サイマー湖畔出身の言語学者。大帝エカテリーナ(二世)の腹心、ダーシュコヴァ夫人に頼んで、スヴェン・イルマリネンを言語学フィールドワークの助手にしてもらう。年齢不詳。中年。おそらく40代。ヴァイオリンが得意。

エカテリーナ大帝(二世)。フランス革命後はロシアの自由を制限したが、農奴を自由にする法律を作った以外は、文化芸術に造詣が深い賢帝。例えば、自分の身体でワクチンを試しもした。ダーシュコヴァ夫人に、スヴェン・イルマリネンの恩赦を許した。

ダーシュコヴァ夫人。ロシアアカデミー総裁。ネストリ・ミクライネンの求めに応じて、スヴェン・イルマリネンを助手にするため、エカテリーナ大帝にスヴェンの恩赦を願い出て受け入れられる。醜女と言われているが、エカテリーナ大帝のクーデターに協力し、長く信頼関係にあった(が晩年は別れた)。

セレブロ(銀)。土星のイヌイット群衛星(本当にそういう衛星が土星にあるのです、仰天しました!)から時空を超えて地球の帝政ロシアに飛来した巨人族。女性科学者。ダーシュコヴァ夫人から依頼されて、ネストリとスヴェンのシベリア言語調査を支援する。その理由は故郷のイヌイット衛星群の名にあった。

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