第2話

文字数 790文字

「美人だって言われませんか?」

そう尋ねてみた。彼女は笑い声をあげた。そして「ありがとうございます。でもとくに言われたことないかな」と口じゃ言ってたけど、まんざらでもないみたいだった。

ナンパは営業みたいなもんで声をかけるくらいならバカでもできる。

そこから先が問題なんだ、まるめこめるかどうかが。

「ひょっとしてこの辺りに住んでるんですか?」

「ん?ぜんぜん違うところです」

待ち合わせか何かしてるのか聞くと「これから、幼稚園に娘を迎えに行くところなんです」彼女の声がやわらかく仄めかす口調になっていた。

「なんだ結婚してるんだ」

僕が言うと、女性はクスクス笑った。しかし、人妻だからって、僕はちっとも気にならない。より一層魅力を感ちゃうんだ。

時間はまだやっと昼頃だったし、内心の動揺を悟られないよう、なおもメゲずに「お茶しませんか?」と食い下がった。

彼女は「今してたところなんです」と笑った。

そして「違う店で……」僕が言ってる間に、女性はきちんとした声で「これからほんとうに娘を迎えに行かなきゃ行けないので」そう言って優しく微笑みながら立ち上がってお金を払って出ていく。

こんなところに残されたら、たまったもんじゃないから、僕は泣き出さんばかりになって、転びそうになりながらその女性を追いかけた。女性はちらっと後ろを振り返りながら通りを歩いていく。僕も一生懸命後追ってしゃべってみたが、ある程度のところで溜息をついて、肩を落として追うのをやめた。

あのころは女のことで頭がいっぱいだった。が、女性に関して僕の人生に何かが起こることはなかった。

どこにいても、何をしていても寂しく、なんかつまらなかった。いつも孤独を感じ、死と未知の希望の間で葛藤し、諦めと欲望が入り混じっていた。そして、他人が書いた物語ではなく、自らの物語を探していた。現実から離れた物語ではなく、自己の内面的な要素に基づく物語を。

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