第24話

文字数 1,147文字

とにかく、彼女とそこで会うのは、なんとなく妙な気分だった。変な意味の妙ではなく、みゆきと僕にとっては違っていたということだ。

あたりの様子を窺いながら僕は緊張しながら、建物内に入って行った。

中は清潔で整然としていたが、空気は重く、息苦しさが漂っていた。医療機器の音が静かに響いていたが、なんとなく時間が止まったかのようで、壁には淡い色の絵画がかかり、すべてが別世界の出来事のように感じられた。

受付で彼女の名前を言って、部屋を聞いた。そこのドアを通って廊下を突き当たった左手の一番奥の部屋です。と言われた。

ドアを通ってX線検査室のそばを通り、廊下を歩いて、奥の部屋へと向かって行った。病室は四人部屋で、ガウンを着て、窓側のベッドで半身起こしたみゆきが紙パック入りの牛乳をストローですすっている姿が目に映った。僕に気づいて、みゆきが少し恥ずかしそうに笑い、僕は吸い寄せられるように彼女のベッドに向かって行った。

ほかのベッドにも人がいて、白いカーテンで仕切れるようになっていたけど、ふつうに振る舞い、普通に帰るつもりだった。

ほのかな太陽の光が彼女の唇にキラリ輝き、毛布をかけて半身を起こしていたみゆきの姿はなんとなく人魚のようだった。

「元気?」僕は彼女の顔を見下ろしながらそう尋ねた。しかし、その問いかけもつかの間、病院のガウンの下に隠れているブラに包まれた乳房が僕の視界を支配した。急に、世界が遠のいていくような感覚に襲われ、僕は息を詰まらせそうになった。しばらくの間、僕は口ごもるように話し、それから窓の外を見つめた。そして、再びみゆきを見つめ、思い出したかのように、財布を取り出し、彼女に手渡した。

「はい、お見舞い」

みゆきが食い入るような視線を向け、僕たちはつかのま見つめ合った。「こんなに?」と言った。

「だって、しゃぶしゃぶそのくらいしたでしょ」笑みを浮かべながら言うと、みゆきは一瞬、わからないようだったが、彼女は僕を見上げてかすかに頷いて、それを財布にしまった。

それから僕は窓辺に立って、しばらくのあいだ中庭を見下ろした。ふちの芝生の部分は木林の陰になっていて、ところどころに木漏れ日がさしていた。あと何を話せばいいか考えてから、ふと、僕はみゆきの方に向き直り、とりなすように口を開いた。「ねえ、俺、店長になったよ」そう言って、ポケットに手を突っ込み財布から名刺を出した。

「今度食べにおいでよ、好きなものご馳走するからさ」てれくさそうに言って渡した。

名刺を見たみゆきは「こんなところに、女一人で食べに行けないよ」と素早く言い返し、明るく口もとをほころばせた。その言葉に僕は微笑む。二人で笑い出した。そしてそれ以上なにも言わなかった。それだけだった。

時間にしたら、せいぜい十五分くらいだろう。




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