第10話

文字数 740文字

そして、つぎに、「しゃぶしゃぶって、どんな感じなの?」と、尋ねると、みゆきは言った。

「どんな感じって、食べに行けばわかるでしょう」

高校の時、お前しゃぶしゃぶ食ったことある?と聞いてきた奴がいた。僕に言わせれば、あるよ。お前ないの?しゃぶしゃぶも食ったことがねーのかよ?嘘だろ?けどこいつんち母子家庭なんだよね。でもその時は、そんな話は聞いたことがなかったから、お前みたいな貧乏人、私立の高校にくるな、都立に行け都立に。そいつをおちょくって笑った。そいつは、へー、しゃぶしゃぶなんて食い物があるんだぁ、あそう、知らなかった。なんって言っていた。

後日、そいつが昨日しゃぶしゃぶ食べたよ。なんて言いにきたけど、どうせお前のかあちゃんがスーパーで買ってきた安い豚肉でしゃぶしゃぶしたんだろ、なんて、意地悪くそいつをおちょくって笑ったのを思い出しながら、みゆきに「しゃぶしゃぶって、あれ一人で食べに行ってへいきなの?寂しくないかな?」と聞くと、みゆきが「だれか誘って行けばいいじゃない」と答えた。

僕は、なぜだかわからないが、首をうなだれた。深いため息をついきながら「いないよ。一緒にしゃぶしゃぶ食べに行ってくれる人なんていないよ」言ったあと、おもいあまったように口を開いた。「ねえ、今度一緒に食べに行こうよ。連れて行ってよ」

すると「明日、いや明日は無理だから、日曜日食べに行く?」みゆきがそういうのを聞いて、僕はびっくりして目を上げた。

「日曜日?」

目を見張るほどの驚きだった。まさかしゃぶしゃぶを一緒に食べられるなんて、夢にも思わなかったからだ。その一方で、早くもいくらかかるのか心配になってきた。なぜなら、みゆきはしゃぶしゃぶをご馳走してもらえるぐらいのことは考えているだろうなと思った。
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