第23話

文字数 318文字

半年ほど経ったある日の夜、すっかり消息がわからなくなったみゆきのことが今更ながら気になり、少し心配になって、電話をかけると、みゆきが出た。

「俺、覚えてる?」期待を押し隠しながら、僕は言った。「大野だけど」

彼女は覚えてくれていたが、薬か何かをやっているのか、それともうつ状態になっているのかわからなかった。「待って、いま話せるところに行くから」と、その言い方は、少ししわがれ声で眠たげだった。

たあいのない会話をした記憶と、翌日、ヤンキースの帽子をまぶかにかぶり、お昼ごろ電車に乗って彼女に会いに行ったことを思い出す。みゆきと出会った時と同様に、雨はしとしとと降り続けていたが、もうじき止みそうなのがわかった。向こうの空が明るくなっていた。
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