第15話

文字数 533文字

タクシーから降りたみゆきと僕は、一番街通りを歩いていた。

映画の看板を眺めながら歩いていると、みゆきが僕の後ろで呼び止めた。

「ねえ」

僕は立ち止まり、ふり向いた。「なんかお腹へらない?」と、みゆきが言った。しかし、コマ劇場の脇にあるロッテリアは閉まっていた。そのロッテリアを見ながら、「もう閉まってるよ」僕が言うと、みゆきが道のど真ん中で僕をじっと見て、「は?」と、あいまいに言って、眉を寄せ、あきれ顔をしながらちょっと口をきけなくなっていたから、思わず笑っていると、またみゆきが言う。

「私、お腹が減っちゃった」

少なくとも、僕の中では、夜中にきちんとした焼肉屋で焼肉を食べるという発想は浮かばなかった。考えたこともないもんね。だってそうだろ、夜中の2時だぜ、2時。

その点、ホストやキャバ嬢や風俗嬢って、食べるんだろうな。みゆきが焼肉を食べようって言うから、ついて行ったけど、もうどこの焼肉屋だったか憶えてない。覚えているのは、その界隈のきちんとした焼肉屋に入ったということ。案の定、客は僕たちだけだった。

でも、今こうしてみると、夜中に焼肉食うのも、そんなにおかしなことでもないか。それでいて、夜中の2時にきちんとした焼き肉屋に行ったのは、後にも先にもそのときだけだった。
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