第３話

私がはじめて彼と出会ったのは、友達四人でお好み焼き屋さんに入った時のことだ。　

今なら不倫と聞けば、相手は職場の妻子ある人やIT関係の人かしもしれないわね。もっとも当時もそれに近いかもしれないけど。お好み焼き屋の店員なんてレアケースよね。

私たちが入ったお店には、お好み焼きの他にもんじゃ焼きもあったから一つ頼んだの。けど四人ともどうやって焼いたらいのかわからなくて店員さんに焼いてもらったの。

すっかり食べ終わって、お会計をして、店を出たら、もんじゃ焼きを焼いてくれた店員さんが追いかけてきた。

「すみません！ちょっと！」

その声に振り返った。

つまり、その、ナンパされたわけなの。

店員さんは私に話かけてきた。

「もしよければ、今度映画でも見に行きませんか？」私は男性からそういう目で見つめられるのは生まれて初めてだった。

友達三人は私の顔を見て笑っていたわ。

この瞬間を私は今でも鮮明に思い浮かべることができる。

私は顔が赤くなるのを必死にこらえた。私の目に映ったのは、ジーパンに小麦粉を付けて、手にコテを持っていたやさしく繊細そうな男性。それが彼だった。

その彼が、差し支えなければ名前と電話番号を教えてもらえないかな？そう言ってお店の名刺とボールペンを渡してきた。

私は見えない糸に引きずられるように、何も言わずにその名刺に名前と電話番号を書いて渡した。