第20話

文字数 560文字

奥さんが出産の時期を迎えると、彼は姿をみせなくなった。こんなに長く会わずにいたのは初めてだった。いつ生まれてもおかしくないお腹の大きな奥さんを車に乗せて、ハンドルを握り、病院に向かう彼の姿が浮かんできた。

街はクリスマスで賑わっているというのに、私はひとりぼっちで、以前にもまして気がふさいだ。

細々とした気のきいた商品を売っている店に入ると、大好きなクリスマスソングが流れていて、不意に胸がきゅっとしめつけられ、涙が出てきた。昔、彼と始めて二人でクリスマスを過ごすことが出来たときの事を思い出し、わずかな間、混雑した店の中で泣いた。

いずれにせよ、私が会いたい、そう望んだからといって、彼は来てはくれなかった。私は、自分がほんとうにひとりぼっちなんだと感じた。あなたと会わなくなったら、私は何に幸せを見いだせばいいのだろう?だから、私がひとりでいるときには、人生はまったく無意味だということになる。

そんな自分が嫌だった。けれど、私は、彼自身がそうしたいと言うまで、あきらめるつもりはなかった。

彼が望む限り、これからも関係を続けていきたい。

しかし、そうした感情に対して自分が愚かであることも理解している。なぜなら、どんなことがあろうと、彼が私より苦しむなぞありえないからだ。

そんなことを考えながら自分のアパートに帰って行った。
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登場人物紹介

今の私

あの頃の私

そして、あの頃の彼

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