エピローグ

文字数 537文字

この数ヶ月、世界がどの方向に向かおうとしているのかわからずにいるが、最初の緊急事態宣言が解除され、コロナウイルスがやっと少しおさまって、初めて思い切って外出した日、用事もかねて何十年ぶりに池袋に来た。

歩道はどこも人がいっぱいで、地下にあるショッピングパークに降りていく階段をおりてフロア内に入ると、向こうにコージーコーナーがあった。それだけじゃない。バックグラウンドミュージックにはLove Theme from St. Elmo's Fire がかかっていた。

言葉にするとひどくばかげているような気がすけど、私は導かれるままそっちに向かって歩いた。自分のなかの形と音と影だけの世界に入っていくようだった。

そして、彼との思い出が何か安らぎをもたらすとは思っていなかったのに、ケーキやショーケースに並んだ焼き菓子やマドレーヌの入ったギフトを眺めていたその時、これまでそんな風に感じたことは全くなかったのに、『小さな宝もの』と書かれたプレートを見て、心が揺さぶられ、私の目から涙がこぼれ出たけど、口には笑みが浮かんでいた。

天井のライトの光が、そのプレートをどこか神々しく照らしていた。
 
マスクをしている私の頬を涙が温かく伝って落ちていった。


                おわり
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登場人物紹介

今の私

あの頃の私

そして、あの頃の彼

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