第10話

文字数 569文字

当然のことだけど、彼はいつ打ち明けようか迷っていたはず。

母親になる機会は失ったかもしれないが、子供は大好きだから、彼が息子を愛する気持ちなんかはよくわかる。だから彼はそれを実行したんじゃないかしら。つまり私に打ち明けたんじゃないかしら。

けど、あなたはいつも言っていたわ。

君のことを愛してる。

あれは嘘なの?

単に、ベッドをともにしている私に好奇心をいだいていただけ?

それとも本当に愛してるから打ち明けたの?

彼は自分が女性に抱いている願望を私に求めてきた。それは彼の中の一部で精神的なことだった。完璧な、けして変わらない愛。

私はそれを受け入れて叶えてあげた。

だから私の洋服は大人ぽい優しく落ち着いたシックなものばかりになっていった。年をとって見えるし、ぐっと粋になる。

彼にとったらくすぐったい気分でもあったんじゃないかしら。

でも笑っちゃうのは、彼の奥さんは無茶苦茶派手で可愛らしい人だった。

打ち明けられた後、一度だけ、彼と奥さんがベビーカーをひいて買い物しているところを偶然ばったり会ってしまったの。

どんなに私が驚いたか、わかるでしょう。誰なのか気づいたときの驚きといったら!私は釘付けになりそうな視線をなんとか引きはがした。彼本人もさぞかし焦ったでしょうね。

お互いに口をわずかに開けたまま、彼は私の脇を、私はうつむきながら彼の脇を通り過ぎた。
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登場人物紹介

今の私

あの頃の私

そして、あの頃の彼

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