第2話

文字数 863文字

「その、つまり……」私は言葉もないほど驚愕した。動揺で胃がねじれたが、目をそらすことができず、彼の目を見続けた。  

彼は何を考えていたのだろう?

どうしたかったのだろう?

気にかかるのはそこだ。

「そんな酷いことってある?」

疑問が次々と脳裏によぎる。

急に開けた未来が……結局、私は彼について何も知らないのだ。

彼は説明した。「正直なところ、知らないうちにこうなってしまたんだ。気がついたら君をうでの中に抱いていた。それに君も答えてくれたから……何もかも忘れてしまった」話の感じからすると、今ならまだ間に合うと思って、さりげなくもう来るつもりはなかったらしい。

世の中にはどうしようもなくバカな男がいる。一部の男か、いや、大半の男だろう。

「結婚していて、どうして私に興味を持ったの?」

「結婚していようといまいと、君みたいな女性なら、男が放っておくはずがないよ」

「簡単に言わないでーー」私は語気を強めた。

涙が込み上げてきた。

私は彼をじっと見て、自分は彼の真意をよみ間違えていたのだろうか、と思った。今彼の目にあるのは愛ではなく同情だった。

彼は今すぐにでも自分の居場所へ帰れる人だった。彼との距離が一気に遠くなる思いがした。

それでも、私はまだ希望をいだいていた。私の中でものごとの善悪を判断できる能力を持っている部分は、取り上げられてしまった。

彼にまっすぐ見つめられると、すぐに終わりにすることなんてできなかった。これを神の導きととらえる人がいるだろうか?

可能性は非常に低いかもしれないけど、私はそのとき、二人の関係について、なんであろうと続けていく。しまいにはどこに行き着くのか、どうなるのか、確たる未来像などなかったが、とくにいまはこれまで通りに前に進んでいる感じ、喜びや安定感がつのっていく感じ、それだけでまだ満足だった。が、今の時点でそれを彼に言うのは危険すぎる。彼のいいなりになるとつげるようなものよ。いちばん困るのは、私が簡単に言いなりになると彼に思われることだ。確信が持てるまで、黙っていよう、突き進むしかない、そう心に決めた。
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登場人物紹介

今の私

あの頃の私

そして、あの頃の彼

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