第20話:安倍首相の死

文字数 1,562文字

 このため安倍の後ろががら空きになった。11時30分43秒頃、自転車に乗った男性が車道を東進し、ゼブラゾーンにさしかかった。男性は、11時30分51秒頃、ゼブラゾーン上に一時停車した。その後、再び低速で東進した。また、台車を押す男性が車道を東進しゼブラゾーンに到達した58秒頃、自転車の男性の南側を追い抜いた。

 後方担当の警察官は、この男性2人の姿に気を取られ目で追っていたために斜め後ろから被疑者が近づいてきたことに気付かなかった。11時31分頃までに被疑者はロータリーに侵入した。11時31分頃、被疑者は左右を確認せず車道を横断し車道のセンターラインを超えたあたりで立ち止まった。

 11時31分3秒頃、被疑者は演壇に近づきながら、たすきがけの黒いカバンから筒状の銃身を粘着テープで巻いた手製の銃を取り出した。11時31分5秒頃、安倍首相に照準を合わせた。11時31分6秒頃、安倍首相が「佐藤は、できない理由を考えるのではなく…」と語った瞬間、被疑者は1発目を発射した。安倍首相と被疑者の距離は約7メートルであった。

 1発目は誰にも当たらなかったが、爆破音のような大きな音とともに白煙が上がり安倍は左後方へ振り返った。被疑者は1発目の発射から約2.7秒後の11時31分8秒頃、警察官が止めに入る前に更に安倍に近づいて2発目を発射した。この時点で安倍と男の距離は約5メートルであった。2発目は安倍の首の右前部と左上腕部に着弾した。

 安倍首相は、よろめきながら演台から降りると膝をついてその場に倒れ込み、やがて意識を失い、心肺停止状態になった。警察の調べでは、被疑者が車道に歩き出してから1回目の発射までの間隔は「9.1秒」とされた。警察庁がまとめた報告書により1発目と2発目の間隔は「2.7秒」とされた。被疑者は、奈良県警に取り押さえられ、11時32分に殺人未遂の現行犯で逮捕された。

 その間、現場に居合わせた看護師らが救命措置を施し、11時37分に先発の救急隊が到着、11時41分には次の隊が到着した。安倍は道路に仰向けの状態で倒れており、自動体外式除細動器「AED」を用いるなどして救命措置が行われていたが、この時点で心肺停止の状態であることを確認した。その後、11時43分、救急車が安倍を収容した。

 そして、11時54分に現場からドクターヘリの着陸先である平城宮跡歴史公園に向かった。この時点で消防は右首の銃創、左胸の皮下出血を確認した。12時9分に安倍がドクターヘリに収容され12時13分、ドクターヘリが離陸。12時20分、安倍は橿原市内の奈良県立医科大学附属病院高度救命救急センターへ搬送された。

そして、100単位以上にわたる輸血と止血術や蘇生的開胸術などの蘇生措置が行われた。16時55分、一報を受けて東京都渋谷区富ヶ谷の安倍の私邸を出た妻・昭恵が奈良県立医大附属病院に到着。医師が輸血を大量に行うなど蘇生措置を実施したことおよび容態を告げ、最終的に「蘇生は難しい」と昭恵が判断。17時3分に死亡が確認された。

 首相経験者に対するテロとしては1936年2月26日の二・二六事件で高橋是清と斎藤実が陸軍青年将校らに殺害されて以来の出来事だった。内閣制度発足以後、殺害された現職首相・首相経験者としては伊藤博文、原敬、高橋是清、濱口雄幸、犬養毅、斎藤実に続いて7人目であった。

 日本の首相経験者の60歳代での死去は池田勇人、小渕恵三、橋本龍太郎に次ぐ戦後4人目であった。10月20日、円相場が一時、1米ドル150円台まで値下がりした。1990年8月以来32年ぶりの円安水準となった。11月20日~12月18日、2022FIFAワールドカップが開催された。日本代表は2大会連続・4度目の決勝トーナメント進出を果たした。
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