第16話:パリ協定と地球温暖化

文字数 1,519文字

 一方で雇用喪失、工場閉鎖、産業界や一般家庭に高額なエネルギーコストの負担を強いるとし、また、2025年までに製造業部門で44万人、全体で270万人の雇用が失われ、2040年までにGDP「国民総生産」で3兆ドルが失われると述べた。大統領が演説で引用したこうした数字は、民間のシンクタンク米国経済研究協会「NERA」が3月に発表したもので引用された数値は報告書どおりだった。

 しかし、エール大学のケネス・ギリンガム教授は米紙で「NERAの報告書で示された数値は様々な仮定の下に算出され、割り引いて解釈すべきだ。特にクリーンエネルギー部門の成長など温室効果ガス削減のプラスの側面を配慮しておらずトランプ大統領は報告書の都合のいいところだけ取り上げている」と論評した。

 またトランプ大統領は、6月1日の演説でオバマ前政権がコミットした国連緑の気候基金「GCF」への拠出が米国の巨額な負担となっていると批判した。パリ協定では、世界共通の長期目標として産業革命前からの気温上昇を摂氏2℃未満に抑制すると1.5℃まで抑制する努力の継続を目指した。

 協定第2条1項」協定の発効要件は、加盟国が55ヵ国以上で加盟国の温室効果ガス総排出量が世界全体の55%以上と規定されている。米国の排出量は17%程度なので米国が離脱してもパリ協定の存続には影響しない。パリ協定は2016年11月4日に発効しているため、米国は協定第28条1項により2019年11月4日まで協定脱退を他の締約国に通告できない。

 また、協定第28条2項で協定離脱が有効となるのは通告から1年後となっており米国の離脱が実現するのは早くて2020年11月4日。つまり次回の米国大統領選挙の翌日となる。ただし、協定第28条3項で米国がパリ協定の基となる国連気候変動枠組み条約「UNFCCC」から脱退すればパリ協定からの即時離脱は可能だがトランプ大統領は国連気候変動枠組条約「UNFCCC」に留まるとみられた。

 この条約が米国議会で可決された1992年、大統領は共和党のジョージ・ブッシュ「父」で共和党議員も賛成した「UNFCCC」離脱はパリ協定離脱よりも政治的ハードルが高いといわれているからだ。さらに大統領は、6月1日の演説でパリ協定からは離脱するが米国の企業や労働者にとって「公平な」条件での再加盟に向けて交渉を開始するか、新たな枠組みを求めていくとして今後に含みを残している。

 スコット環境保護庁長官は6月1日、大統領の後に演説し米国の雇用を最優先する大統領の決定を支持すると共に米国が環境上の責任で他国に謝罪すべきものはないと述べた。スコット環境保護庁長官は2000~2014年にかけて米国は温室効果ガスを18%以上削減している。しかし、これは政府の規制や指導でなく民間企業のイノベーションや技術の進歩によって成し遂げたものだと説明した。

 規制ではなく民間のイノベーションで地球温暖化対策は可能だという見方で、これがトランプ政権の基本的なスタンスともいえそうだ。その一方で石油・ガス産業界はパリ協定離脱を必ずしも歓迎しているわけではない。とりわけレックス・ティラーソン国務長官の出身元であるエクソンモービルは以前からパリ協定から離脱しないよう大統領に求めていた。

 2017年7月5日、九州地方や中国地方で7月6日にかけて記録的な豪雨に気象庁によると福岡県朝倉市では6日昼前までの24時間の雨量が545.5ミリとなり観測史上最多を更新した。2018年が明け、5月19日、第71回カンヌ国際映画祭の長編コンペティション部門に参加した是枝裕和監督の「万引き家族」が最高賞のパルムドールを受賞した。
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